はしご酒(4軒目) その五十一
「アブリダサレル ヤミ」②
「旨味どころか、むしろ、灰汁(アク)みたいなものが、炙り出される」、とAくん。
「アクですか」
「そう、灰汁。旨味を表(オモテ)とするなら、その裏側(ウラガワ)にあるエグ味とかニガ味とか、という、そういうヤツね」
「裏側ですか」
「その裏側が炙り出されるわけよ」
つまり、旨味とアクとは表裏一体、ということなのだろうか。
「でも、このエイヒレを、いくら炙ったところで、そんなアクみたいなものが出てくるとは、到底、思えないのですが」、と、ほんの少しだけ反旗を翻してみる。
先ほどより増して、更に不適な笑みを浮かべてAくんは、そんな反旗に動じる様子など微塵も見せることなく、ユルリと語り続ける。
「その通り、優秀なエイヒレは、アクなんてものとは、もちろん無縁。だけれども、この星に生きる我々人間や、その人間がつくりあげた社会は、となると、そうは問屋が卸さない」
エイヒレに端を発するエイヒレがらみのミステリーは、人間やら社会やらをも巻き込んで、壮大なサスペンスストーリーに様相を変えつつあるものだから、なんだか妙に、ドキドキし始めてしまう。(つづく)