ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.652

はしご酒(Aくんのアトリエ) その九十三

「メラビア~ン!」①

 目は口ほどにモノを言う、とAくん。

 その「表裏一体」論からの新たなる展開なのか、それとも、唐突なる話題の変更なのかがわからないまま、Aくんの、目が口ほどにモノを言う、という言葉が、スポンと私の中に入り込む。

 そういえば、随分と昔のことだけれど、ある人が、日米の懐かしの冒険活劇を比較しながら、ある視点からあるコトを熱く語っていたことを思い出す。その人が誰であったのかは、全く覚えていないのだけれど。

 その受け売りをそのまま語り始めてしまう、私。

 「アメリカの西部劇に登場するような列車強盗団は、口元をハンカチで隠しているのに、この国の、たとえば、鉄腕アトムなどに登場するギャングたちは、そのほとんどが黒いサングラス、ですよね」

 「そうそう、それだよ、それ、目は口ほどにモノを言う。おそらく、少なくとも当時のアメリカでは、目は口ほどにモノは言わなかった、のだろうな」、とAくん。

 「だから、隠す必要がなかった、と」

 「かもしれない。で、ココで、口以外のモノ、つまり、言葉以外のモノ、ってヤツが、ブクッと浮上する」

 言葉以外のモノ、とは。

 それが、目、か。

 またまたジワリジワリとヤヤこしくなってきたぞ、と、ほんの少し、更なるソコからの展開に、身構える。(つづく)

ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.651

はしご酒(Aくんのアトリエ) その九十二

「ヤッカイナル ヒョウリイッタイ」

 その本の表紙をボンヤリと眺めながら、「トビッきり重要なキーワードたちが、逆に、トビッきり厄介なモノになることもまた、充分にあり得ますよね」、と私。

 「そりゃ~、間違いなくあり得るだろ」、と、間髪入れずに、Aくん。

 あまりの即答ぶりに少々面喰らいつつも、同意してくれた嬉しさに気を良くした私は、さらにほんの少し体感温度を上げながら語りまくってみせる。

 「人間というものにとって欠かせない、極めて重要なモノたち、たとえば、個性、自由、表現、さらには、愛や正義といったモノのその裏側に潜む厄介さのために、いつだって私は、モヤモヤとしがちで。たとえば、一つ間違えれば、自由が、表現が、弱者を傷つけるという悪魔の心を生み落とし、愛が憎悪を、正義が争いを、生み落とす。という、そんなヘビー級の危惧が、私の中にはずっとあるのです」

 「僕にもあるよ、そのモヤモヤというヤツ。つまり、まさに、厄介なる表裏一体。そういったモノたちってのは、人間側に、人類側に、大きく委ねられている、ということなのだろうな」

 トビッきり重要なキーワードたちも、その有りようは、結局のところ、所詮、人間次第、人類次第、だということか。

(つづく)

ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.650

はしご酒(Aくんのアトリエ) その九十一

「ベンドクタイショウ」②

 まえがき - 小野正嗣

 きものや帯には、定められた寸法、つまり「型」がある。その「型」という厳然たる制約のなかで、作家たちが、染め、織り、刺しなどの技を通じて表現する〈色と形〉の多用さには驚くべきものがある。

 ここには、八人のきものの作り手たちの肖像が収められている。・・・

 

 私の中のトビッきりな重要キーワードであるだけに、いや、あるからこそ、逆に、いつだってモヤモヤとしがちな個性とか自由とか表現とかといったモノ、の、あるべき姿のそのヒントが、サラリと書かれているような気がして、その冒頭の部分をもう一度スピードを落として読み返す。

 「まえがきから、期待感が高まりますよね」

 「だろ。その中に、ものづくりの美しき哲学が、ギュッと凝縮している」

 なるほど、哲学がギュッと、か~。無性に、無性にその続きを読みたくなる。

 「コレってお借りできますか」

 「又貸しになるけど、いいよ、どうぞ」

 又貸し?

 「どなたかに借りておられるのですか」

 「あ~、ほら、あの、キモノ美人。彼女が、読んでみて、と言って置いていった」

 「いいのですか、又貸しなどして」

 「いい、全然いい。その本、もう又貸しだらけの人生を、本生(ホンセイ)を、かな、今までに歩んできているから、全くもって問題なし」

 出所(デドコロ)があのZさんならなおのこと、更に一層、期待感が高まる。

 「じゃ、お言葉に甘えて」

 小野正嗣の『作り手の春夏秋冬』、品のいいワクワク感が止まらない。(つづく)

ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.649

はしご酒(Aくんのアトリエ) その九十

「ベンドクタイショウ」①

 「その、便内読書部門で、燦然と光輝いた今年上半期の『便読大賞』が、コレ」、と、手渡されたもう一冊の本の向こう側に、どうだ!、と、言わんばかりのキュートなドヤ顔がのぞいている。

 とはいえ、たとえどれほどキュートなドヤ顔で、便読大賞などと言われたとしても、そう易々と、「ほ~、そうなのですか」と納得することができないトコロが私のイヤなトコロであるわけで、それはそれとして反省しなければならないトコロ、とは、思っている。

 たしかに、その、気持ちいい紙の風合いを際立たせた装丁は、読み手の好奇心を刺激する。

 「触れた感じがイイですね」

 「だろ。ほとんど自主出版に近い感じなだけに、著者の思い入れがストレートに反映しているのかもな」

 ペラリペラリとベージをめくる。

 まえがき、か。

 まえがきなど、滅多に読まない。本編に感動して、読後にその勢いで、ということもないわけじゃないけれど、そんなことはそうあることではない。

 にもかかわらず、なぜか妙に気になって、おもわず、そのまえがきを読み始める。(つづく)

ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.648

はしご酒(Aくんのアトリエ) その八十九

「デンドク ト ベンドク」

 「本、とか、読んだりするかい」、とAくん。

 「読書、ですか。しますよ、電内読書」、と私。

 「でんない、読書?」

 「通勤電車の中での読書です」

 「あ~、車内読書ね」

 「仕事中に、社内でコッソリと読書、みたいに思われてしまうと心外なので、あえて、電内読書と言うようにしています」

 「なるほど~、でんない、ね。かまわないかまわない、の意味のどこかの方言の、だんないだんない、と、どことなく似ていて、なんかイイよね。かまわないよ、読書してくれて、おおいにやってよ、だんないだんない、って感じで」

 腰も痛いし息苦しいし、ということもあって、どうしても苦手な満員電車を避けるために、私は、毎朝、バカみたいに早く起きている。さすがに焙煎とまではいかないが、カリカリとコーヒー豆をミルして、グビリといただく早朝の一杯は、至福のひとときをもたらしてくれている。そして、気持ちいいぐらいガラガラの通勤電車での電内読書もまた、精神衛生上、極めて有意義なものと相成っているのである。

 するとAくん、「となると、さしずめ、僕の場合は、便内読書、だな」、と。

 「べんない読書、ですか」

 「ひとり静かにもの思いに耽(フケ)りながら、トイレで本を読む」

 「あ~、その便の、便内読書、ですね」

 「そう。いいんだよ、コレが」

 なんとなくわかるような気がする。

 「でも、あまり長い時間となると、ちょっと抵抗はありますね」

 「ソコなんだよな~。で、オススメの一冊がある」、と、先ほどの写真集のホン近くから一冊の文庫本を取り出す。

 「学生だった頃、友人がソフトボールの試合があると言うものだから、一度だけ応援に行ったことがあるんだよね。そのときの相手チームで一際目立っていたのが、南伸坊さんだったわけ。それだけのことなんだけれど、その時からなんとなく親近感が湧いて、それから、彼の本を読むようになって、今では、そのうちの何冊かは、便内読書用愛読書とさせてもらっている」、と、言いつつ、スルリとその本を、コチラまで滑らせる。

 「一便一編にピッタリの一冊」

 一便一編、か~。

 それにしても一便一編とは、随分と上手く言ったものだな、などと感心しながら、Aくんオススメのその一冊、『おじいさんになったね』、に、ササッと目を通してみる。

 どうあがいても誰しもに、必ずや来(キタ)るべくして来(キタ)る、その容赦なき老人化をテーマに、軽やかにコミカルに綴った珠玉の短編エッセイ集、理屈抜きに面白い。

 「トイレは短くササッと、って言われているだろ。だから、ちょうどいいわけ」

 『おじいさんになったね』、か~。

 そんなこの私も、遥か彼方のずっと先を歩いていると思っていた「おじいさん」の背中が、肉眼でもかなりシャープに確認できるようになってきつつある。

 悲しいかな、などと、言ってはいけないのだろうけれど、あえて、悲しいかな、もう、おじいさんの背中に手が届くのに、それほど多くの時間を必要とはしない。でも、だからこそのAくんオススメの、『おじいさんになったね』、なのだろうな。(つづく)

ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.647

はしご酒(Aくんのアトリエ) その八十八

「ボウキャク ノ ソナタ

 でもね、それでも、そんな言い訳の、そのトップクラスに属する「全く記憶にございません」のごとく、キレイさっぱりナニもカも忘れ去ることができれば、と、思うことはないかい?、とAくん。

 キレイさっぱりナニもカも、か~。

 たしかに私は、忘れ去りたいコトを忘れ去れない辛さは、ソコから逃れられない辛さである、と、思ってはいる。しかしながら、そのもう一方で、ソコから逃げられない、とは、ソコから逃げるべきではない、という、お天道(テント)さまの正しきことへのお導きである、とも、思っているのである。

 「あまりにも重たすぎるコト、抱えきれないコト、を、忘れ去りたい、と、思ってしまうことは、たしかにあります。が、忘れ去ることの罪悪感もまた拭い去れないでいるのです」、と私。

 「なるほど、キレイさっぱりナニもカも、忘れ去ることができれば、などと、考えてしまうこと自体、罪だということだな」

 「罪とまでは・・・、でも、場合によっては、忘れ去る、が、逃げる、以外のナニものでもない、としか思えないときがある、ということです」

 「忘れ去る、が、逃げる、か」

 「厄介なのは、それでも逃げたくなることがある、ということなのです。ソコから逃げ出さないと、押し潰されて、自分自身がダメになってしまうのではないか、と」

 「押し潰されてダメになる、か。・・・、ある、あるよな~、ある。それゆえに、忘却の彼方へ自分自身を連れて行ってしまいたくなる」

 なんとなく二人して、忘却の沼に、逃避の沼に、ズブズブと沈み込んでしまいそうになりながら、Aくん、でもさ~、と、少々呆れ果てたような表情を浮かべたまま語り始める。

 「それにしても、とくにこの国の、その未来に責任がある立場のエライ人たちってのは、もちろん皆が皆とまでは言わないけれど、どうも、そんな葛藤など微塵も見せることも、臭わすことすらもなく、見事なまでにいとも簡単に忘却の彼方へ飛んで行ってしまうよな~」

 そう言われればそんな気もする。

 たしかにあの人たちは、繰り返し繰り返し、信じられないほど軽やかに、悪びれることなく、忘却のソナタ、♪記憶にございません、を、口遊(ズサ)む。(つづく)

ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.646

はしご酒(Aくんのアトリエ) その八十七

「イイワケ イイワケガナイ!」

 魔が差した。

 調子に乗りすぎた。

 バレないと思った。

 みんなヤッてるし。

 もともとダークな私だし。

 そんなワケで、トンでもないことをしでかしてしまったとしよう。しかも、バレてしまってドウしよう、みたいな、そんな窮地に陥ったとき、その人間の更なる本性が垣間見られる、ってことがあるワケよ、とAくん。

 「ありますね、あると思います。ま、そもそもがそういうダークなハートの方なワケだから、更に垣間見られるその本性も、遜色ないほどのそういう本性なのでしょうね」、と私。

 「そう、そういうこと。で、そんな中で、屈指のダメさを誇っているのが、言い訳、ってヤツなワケ」

 言い訳、か~。

 「なんかさ~、アッサリ謝罪でもしておけば、それなりに責任を取ってしまえば、ま、今回ぐらいは大目に見てあげよう、などということになるかもしれないだろ、と、僕なんかは思うんだけれど、にもかかわらず、悪びれる様子もなく、そういう認識はなかった、とか、あくまでプライベートなことでございます、とか、そんな話は一切しておりません、とか、老化のせいなのかどうかは定かではないが、全く記憶にございません、とか、などと、どこからどう見ても、どう聞いても、それは言い訳だろ、としか思えないようなことを、ヌケヌケと、シモジモじゃないエライ人たちが宣ってしまったりするものだから、多くの一般ピーポーたちをガッカリさせたり、イライラさせたり、してしまうワケなんだよな~」

 言い訳。

 おもわず言い訳したくなってしまう、その、B級ハートの戦士たちの気持ちも、わからないワケではない。

 でも、あなたが、強大なる権力を握り、そして甚大なる責任を抱えている以上、やはり、申し訳ないが、あなたのその言い訳に、歩み寄ることも寄り添うこともできそうにない。

 姑息な保身臭漂う言い訳が、いいワケがないのである。(つづく)