はしご酒(Aくんのアトリエ) その五百と六十五
「ゴウホウテキ トイウ マモノ」
「ナニが、ドコが、『合法的』なんだよ」
そう、吐き捨てるように呟きながら、ようやく、Aくん、奥から舞い戻ってくる。
「新潟のコシヒカリ。の、その酒と手焼きせんべい。ドチラも呑み残し、食べ残しなんだけれど、この、ザ・コシヒカリズ、が、なかなかどうして、結構、相性がいい」
ナゼか真っ赤な四号瓶の、おっ、純米大吟醸!、が、ちょっとチープなブルーとピンクのガラスのお猪口(チョコ)たちにトクトクトクと注がれる。
品のいい甘い香りがブワッとくる。まず一口。でも、甘ったるさは微塵もない。むしろ、澄み切った印象。もう一口。キレがいい。爽やかな余韻。
に、浸っていると、Aくん、「法が権力者たちによってつくられるモノである限り、権力者が宣う『合法的』という言葉に、ほとんど意味なんてない」、と。
合法的、無意味?
「法を上手くコントロールできれば、独裁者は、皆、ナニをやらかしても『合法的』というわけだ」
独裁者、合法的?
「時折、見掛けるだろ。ほら、憲法がアシカセになる。ジャマになる。などと宣う権力者たちを」
憲法、アシカセ?、ジャマ?
「だから、あの人たちは、ナニがナンでもドウにかして、アシカセにもジャマにもならないように変えてしまいたい、と、考える」
なるほど。
「都合がいいように変えてしまえば、あるいは、都合がいいモノをつくってしまえば、たしかに合法的ですよね」
「悪徳弁護士的、と、言ってしまっても差し支えないかもな。法を、尊び、守っていこう。などとは微塵も思うことなく、ただひたすら、法の隙間を突いてやろう。できることならソコイラに手を回し、法そのものを変えてしまおう。と、画策さえする」
ん~・・・。
Aくんの、その、「上手くやれば、皆、合法的」理論を聞いているうちに、「合法的」が、ナニやらトンでもない「魔物」のように思えてきて、ゾゾゾゾゾッと背筋が凍りつく。
そう、合法的という、魔物。
う、うわ~。
大慌てで、更に、もう一口。
完璧に凍りつこうとしていた背筋が、その一歩手前でユルリと氷解する。
(つづく)