はしご酒(Aくんのアトリエ) その七百と四十二
「コタツニンゲン ニ ナリタ~イ?」
「友人の奥さん」
ん?
「ぜんぜん奥に引っ込んでなんかいないので、ドコからドウ見ても『奥さん』という感じではないし、あまり好きな言葉でもないのだけれど、その友人が、あまりにも何度も何度も『ウチの奥さんが~』と宣うもんだから、あえて、あえて奥さんと言わせてもらうが」
奥さん、か~。
そう言われると、たしかに、好ましくはないか。おそらくは、「女性は出しゃばらず、慎ましく奥で」みたいな、そんなトコロからの「奥さん」なのだろうから。
「その奥さんの冬季限定の口癖」
冬季限定の、口癖?
「ソレが、コレ」
んん?
「『コタツ人間になりた~い』」
コ、コタツ人間?
に、なりた~い?
いや~、この、「原始、女性は太陽であった」からの強引な引き戻し、そして、唐突過ぎるレベルの唐突感。ココまでくると、むしろ、気持ち良くさえ思えてくる。
「とにかく寒い冬が苦手らしくて、できることなら、通勤途上でも、職場でも、四六時中、ずっと、コタツと共に。と、本気で思っている」
私の頭の中で、ウミガメ、ならぬ、まだ見ぬ奥さんのその顔のコタツガメ、みたいなのが、ナゼかコチラをチラッと見てホクソ笑んでいる。またまた、おもわず、吹き出してしまいそうになる。
「みたいなんだけれど。でも、その奥さんの『コタツ人間』ならソレはソレで大いにアリかな。と、思ってしまうぐらい、メチャクチャ、キュートでステキな奥さんなわけよ」
でた。
全くもって好ましいコトではないが、Aくんも私も、隣の芝は青い、ならぬ、「隣の奥さんは青い」などというトンでもないコトを、ついつい思いがち、宣いがち。もちろん、だからといって、思い余って不倫ワールドに身を投じてしまう、などということは、まず、ないのだけれど。
「しかしながら、オリジナルの一次情報、ではなく、ソコから枝分かれ式に派生した二次情報、三次情報、だけによって頭の中が出来上がってしまっている、もう一方の厄介な『コタツ人間』ってヤツだけは、どうしても、『ソレもアリかな』と思うわけにはいかない」
もう一方の、コタツ人間?
「たとえば、己自身の現地取材によって得られたより客観性の高い情報、などではなく、個人のフィルターを通した限りなく感想に近いような情報、いわゆる『コタツ記事』。みたいなモノ頼みの『コタツ人間』たちの、このところの増殖ぶりが気になって気になって仕方がないわけ」
「要するに、ソレって、他人(ヒト)の褌(フンドシ)で相撲ばかりとっていては、真実を、どころか、己自身も、見失う。見間違う。というコトですよね」
「ま、そういうことだな。感想は、所詮、感想。鋭い眼力で真実を見抜いた真っ当な感想ならまだしも、私欲に走ったり他人を貶(オトシ)めたりといったダークな目的やら任務やらを担ったフェイクやら誹謗中傷やらに塗(マミ)れまくった感想たちのその毒リンゴのような魅力に、残念ながら、どうしても、人は、頭も心も揺り動かされてしまいがちなんだよな~」
んんん~。
溢れ返る、ダークに塗(マミ)れた活字たち。そして、ダレかにとって都合がいいように切り抜きされた動画たち。さらに、ソコに乱入するAI(エーアイ)野郎のフェイク画像、動画たち。そうした手の込んだ無責任極まりない「たちたちたち」が、悪意なきコタツ人間たちによって、あるいは、悪意ありまくりのコタツ人間たちによって、無節操に拡散され、次から次へと新たなるコタツ人間たちを生み落としていく。か。
こうなってくると、もう、その、メチャクチャ、キュートでステキな奥さんは別として、お気楽に、能天気に、「コタツ人間になりた~い」などと宣っている場合ではない、ということなのだろう。(つづく)