はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と百と百と二十九
「ボーダレス レス!」
「ボーダレス、って、いったい、ナンなんだよ」
またまた、いつもの唐突さでそう切り出したAくん。この「ボーダレス」系噺(バナシ)もまた、以前から、コトあるごとに何度も登場しがちだ。
「僕に言わせれば、そのほとんどのボーダレスは、ボーダレス、レス。ソレ以外のナニモノでもない。ボーダレスレス。もういい加減にしろよ、って話だよな」
ボーダレス、レス、か~。
「ダレのための、ナンのための、ボーダレスなのか、というコトですよね」
「そう、その通り。己の、己たちの、その欲望のために、ためだけに、ボーダーを越えるコトは、ボーダレスが本来もっている意義でも目的でもないだろ、というコトだ」
おそらくAくんは、ボーダレス本来の意義も目的も見失ってしまったボーダレスもどきを、「ボーダレスレス」と呼んでいるのだろう。
ボーダレスレス。
ボーダレスのナンたるかを忘れてしまったボーダレスレスに、いったい、ナニを見出だすことができるというのか。
「ボーダーの手前と向こう側、その両者の関係性の在り方が、実に大きな問題となってくるわけだ」
ん~。
「たとえば、敵味方みたいな、そういうコトですか」
「ソレもある。ソレもあるが、でも、敵味方であればまだ、力学的にはソレなりに、均衡が取れているかもしれないだろ。その均衡が取れていないという点で、俄然、ソレ以上に罪深さが臭ってくるモノがある。ソレがナニあろう『上下』関係、ってヤツなわけ。相手を見下すような関係性だな。こういう歪んだ関係性の中で、仮に、ボーダレスなどと宣い出したとしたら、まず、間違いなく、トンでもないボーダレスに、つまり、ボーダレスレスになるはずだ」
上下関係の中でのボーダレス、か~。
たしかに、たしかに危ういダークな臭いがプンプンとしてくる。
う~ん・・・。
アンフェア。
アンフェアトレード。
搾取。
差別。
外圧。
侵略。
・・・
強大な力にモノを言わせたトンでもないボーダレス、レス。サラッと数え上げ出しただけでも、次から次にアレやらコレやらキリがない。(つづく)