はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と百と八十三
「ヒトアキビト」
私イチオシの古典芸能、能楽。
その中でもブッチギリに切ない演目、「隅田川」。
歪み、乱れた当時の社会の、象徴的な極悪人の一つとして登場する、「人商人(ヒトアキビト)」。
その人商人によって、ある一人の子どもが攫(サラ)われたことから、悲劇は、実に残酷に幕を開ける。
この人商人、子どもや女性を攫っては売り飛ばす、いわゆる「人攫い」。罪なき一般ピーポーたちの生活を、細(ササ)やかなる幸せを、有無も言わさず一瞬にして奪い去る、名実ともにトンでもない極悪人なのである。
ん?
まてよ。
己の欲望の達成のためなら、無理やり、その欲望を正当化しつつ、暴力でもナンでも使って、人々の生活も細やかなる幸せも、平気で奪い去ることができる、というこの感覚、この感じ。どこかで見たような・・・。
あっ、あ~。
侵略、戦争、迫害、ジェノサイド。
未だに、現代社会においても、そこかしこで見かけることができるじゃないか。
究極のエゴイズム。
空前絶後の暴力。
人商人も、もちろんトンでもなく極悪なのだけれど、その人商人をもウンとエゲつなく凌ぐ極悪さを誇る現代の悪しき権力者たちのその罪の深さは、想像を絶する未曾有の深さなのである。(つづく)