はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と十
「ヒハンスベキコトハ テッテイテキニヒハンスル ト ヒハンバカリスルノハ ヨクナイネ トハ マッタクチガウ」
同じことを言っているようでいて全く違う、ってことがあるわけよ、とAくん。
同じようでいて、全く違う?
「その言葉の背後にある心根やら心持ちやらが全く違う、ということ」
心根?、心持ち?
「たとえば、トンでもなく傲慢な強者に対して弱者が、ナニを思ったか、突然、批判ばかりするのは良くないよね、などと言い出したとしよう」
ん?
「たしかに、それも正論と言えば正論なんだろうけれど、しかし、なぜ、あえて、このタイミングで、そんなことを言い出したのだと思う?」
んん?
おそらく、Aくんは、政治の世界のことを話そうとしているのだろう。
「それが、政治の世界のことであるなら、おそらく、世論の声に、メディアの指摘に、怯(ヒル)んで、弱腰になって、ということ、なんじゃないですか」
とりあえず、そう答えてみる。
「僕なら、批判すべきことは徹底的に批判する、ソコについては絶対に許さない、意地でも見過ごさない、と、言う。なのに、なぜ、其奴(ソヤツ)は、批判ばかりするのは良くないよね~、更には、批判ばかりから脱却する~、などと、宣言までしてしまうのか」
「そりゃ、その、其奴自身が、批判しなくてもいいことまで批判ばかりしてきた、と、思っているから、なんじゃないですか」
と、間髪入れずに、思ったことを直球で投げ込んでみる。
「僕は、そんなコト、わざわざ言う必要なんてないと思っている。というか、口が避けても言うべきじゃない。だって、批判すべきことを信念をもって批判してきたわけだろ。そんな自分たちの信念を自分たちで疑ったり、軽んじたりしてどうする」
ジワジワと燃え上がるAくんに、その打ち気をそらすかのように、カーブで、二球めを投げ込む。
「もう一つ。批判すればブーメランのように批判が返ってくる、と。つまり、どちらも叩けばホコリの出る身体、ということ、なんじゃないですか」
私なりの、渾身の「なんじゃないですか」三連発。ナニやらドッと疲れる。
「ドレもコレも、君の言う通りだと思う。でもね、ココはやっぱり、世論にソッポを向かれようが、悪意に満ちたメディアにアレコレ指摘されようが、自分たちにも批判の矛先が向けられることになってしまおうが、そんな、批判ばかりするのは良くないよね、などという、エッジが緩みまくったヌルいモノ言いをするのではなく、信念をもってビシッと、批判すべきことはナニがナンでも徹底的に批判する、と、言わなきゃダメだろ、違うかい」
燃え上がりすぎて、そう簡単には鎮火できそうにないAくんに、許されるなら、清き百票ほど、投じたいぐらいである。(つづく)