はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と百と百と十六
「ザ・カラーマン ジョウトウ!」
「あのタレント、あんな企業のコマーシャルに出たりなんかして、なんだかちょっとガッカリ。と、うちの会社の若い子が」
そう、独り言ちるように、ナゼかポロリと呟いてしまった、私。
するとAくん、透かさず、あたかも、その若い子のプチ意地悪な言葉を優しく包み込むかのように、「ま、タレントにもよるのだろうけれど、そのほとんどは、本人の意思ではなく、あくまで仕事。そう簡単に断れるもんじゃない。それこそ『致し方なし』ってヤツなんじゃないの」、と。
あくまで仕事、か~。
私も、その若い子に、そう言えば良かった、と、少し悔やむ。
「バカみたいにエラそうに、宣ってしまったんですよね、その時、私は」
「なんて宣ってしまったんだよ」
「あまりにも、権力に擦り寄っている感が満ち満ちているような仕事は、引き受けないほうが賢明、と」
「正論。間違ってはいない。けれど、賢明か賢明じゃないか、って尺度で言わせてもらえば、君のそのコメントは、あまり賢明じゃない、かな」
ん~。
「私もそう思います。後悔すらしています。それほど親しいわけでもないその若い子に、自分のモノの考え方を披露する必要なんて、ありませんもんね」
「でも、賢明でなければならない、ってこともないわけだからさ~。いいんだよ、それで」
「タレントに『色』が付くのは好ましくない、みたいなことを宣っておきながら、当の私自身に『色』が付いてしまう、という、お粗末な話です」
「ちょっと待ってよ」
んっ?
「ソレは違う」
えっ?
「本来、問題なのは『色が付く』ことなんじゃなくて、『その色がナニ色か』だろ。違うかい」
その色が、ナニ色?
「タレントに限ったことじゃないけれど、インフルエンサーとしてプロパガンダの片棒を担ぐことになりかねないタレントにとっての本当の悲劇は、ソレが意に反するモノであったとしても仕事なのだから引き受けなければならない、こと。そして、ソコに更に輪をかける悲劇は、本意ではないその仕事を引き受けることによって、意に反する色が自分自身に付いてしまう、こと、だと、僕は思っている。そうは思わないかい」
なんだか頭の中がコンガラがってきた。
「タレントじゃない君は、インフルエンサーでもナンでもないわけだし、人気商売でもない。それゆえ、色が付くことによって仕事が激減したりもしないだろ。だから、君が正しいと、美しいと、思う色であるなら、それがたとえ賢明じゃなくても、色付きで、結構。ザ・カラーマンで、上等。ぐらいの気持ちで、やればいいじゃないか。だから、微塵も後悔なんてする必要、なし!」
あ~。
コンガラがったままだけれど、なんだか妙にスッキリした気分だ。(つづく)