はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と三十四
「オーウェン、オウエン」
ナニがナンでも労働者を応援。
それが、私が抱いている「ロバート・オーウェン」のイメージ。
そのイメージ以外は、彼のコトなどナニも知らない。のだけれど、彼の、悪しき環境が労働者一人ひとりに致命的な影響を与える、という考え方には、それなりに、どころか、かなり、共感できる。
「ロバート・オーウェン。空想的であろうがなかろうが、社会の闇に切り込むその姿勢には、共感できるものがある、と、勝手に思っているのですが」
「はい、そのロバート・オーウェンです」
「申し訳ないが、学校でチョロッと学んだぐらいで、ほとんどナニも知らないな」
「私も同じようなものです。彼のことなどナニも知らない。でも、ナニがナンでも弱き労働者を応援するその姿勢が、好きなんです」
「おっ。まさかの、オーウェン、からの、応援、かい?」
残念ながら、即座に、「ソレは違います」と胸を張って全否定することができない私は、妙に膨らむ照れのようなモノを掻き消すように、一気に、饒舌に、喋りまくる。
「た、たまたまです。と、とにかく、働いても働いても生活がママならない、そんな、追い詰められた労働者に対して、いとも簡単に、負け組、負け犬、自業自得、自己責任、などという烙印を、躊躇なくペタンペタンと押したがりがちな、そんな世間の風潮に比べれば、オーウェンのその、ブレない、ナニがナンでも『応援』、という姿勢は、やっぱり、いいと思うのです」
「たしかに世間は、どういうわけか知らないけれど、どこまでも弱き者に厳しくて、いつだって自己責任自己責任と、うるさいうるさい」
たしかに、いつだって自己責任、と、うるさいうるさい。
公平公正の「キミダイラ キミマサ」くんが生き辛いように、悲しいかな、悪しき環境に追い詰められた弱き労働者たちもまた、ホントに生き辛い国なのかもしれないな、この国は。
そんなことを思ったりしているうちに、もう、どうしようもないかも、などと、ナニやら絶望的な気持ちになっていく。
するとAくん、「彼のことなんかナニも知らないんだけど、どこかで耳にした彼のこの言葉だけは覚えている」、と。
ん?
「諦(アキラ)めは愚か者の結論」
んん?
「諦めは愚か者の結論、とは、いや~、ロバート・オーウェンくん、正論で、実に厳しいトコロを突いてくれるよな~」
諦めは愚か者の結論、か~。
さすが、ロバート・オーウェン。たしかに、厳しいトコロを突いてくる。でも、その通りだ、諦めてはいけない、ナニがナンでも絶対に、諦めてはいけない。と、どうにかギリギリのところで踏み止まって、辛うじて、自分自身に言い聞かるように、ズシリと思う。(つづく)