ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.756

はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と九十七

「ハイリコム ト ノメリコム ト」

 「ナニごとにも興味を示し、ナニごとにもトライしてみようとするある人が、たとえば、本を読んでみる、ことも、演奏してみる、ことも、野菜を育ててみることも、お経を唱えてみる、ことも、全て、その中に入り込むためにやっているような気がする、と、話していたんだよね」

 ナンの脈絡もなく、唐突に口火を切るのがAくんのウリであり、スゴみなのだけれど、さすがに、たいていは、「ん?」、ということになる。

 全くもって、こちら側に心の準備ができていない中での、次々に押し寄せるがごとくの新たなる展開の波状攻撃、は、やはり、手強い。

 「その、その中に入り込む、という言葉が、妙に気に入った、わけ」

 その中に入り込む、か~。たしかに、いい言葉ではある。

 「のめり込む、とも、微妙に違いますよね」

 「そうだな、微妙に違う」

 「その微妙な違いって、ナンだと思いますか」

 「ん~・・・。さらに見えてくる、と、さらに見えなくなっていく、との、違いかな」

 見えてくる、と、見えなくなる、か~。

 「その中に入り込むことで見えてくるモノがある。たとえば、その曲に込められた今は亡き作曲者の思い、とか」

 今は亡き作曲者の思い、か~。

 「いかなる先入観も捨てて、真っ白な気持ちで入り込むからこそ、ソコに込められた思いが見えてくる」

 「逆に、のめり込む、は?」

 「最初から、好きで好きでたまらない、そんな気持ちのまま、のめり込む、のめり込んでしまう、が、ゆえに、肝心要のモノが、本質が、見えなくなる」

 「あっ」

 「ナニ?」

 「ソレって、岩盤支持層ってヤツですよね」

 「岩盤支持層?」

 「仮に、その候補者の魂にダークな闇がかかりまくったとしても、ナニがナンでも岩盤並みに支持する。その、情(ジョウ)みたいなモノにまみれにまみれた執着が、目を曇らせ、判断を誤らせる、ということと、とても似ているように思えます」

 「なるほどな~。いわゆる、支持政党ってヤツだな」

 「ファンクラブじゃないわけですから」

 「ファンクラブの会員と言えども、そのタレントがあまりにもいい加減なことをしでかし続けていたとしたら、そりゃ、退会だって辞さないだろ」

 Aくんが宣うところの「その中に入り込む」と「のめり込む」とのその微妙な違いが、そこはかとなく、ながらも、ようやくハッキリとしてきたような気がする。(つづく)