はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と四十二
「シッタコッチャナイ ト ソンナモントチャウン」
今宵も、会話のそこかしこに登場する、数時間ほど前には再会まで果たせた、あの、どこまでも大阪弁のOosacan(大阪人)なOくんの、数多ある口癖の中で、Aくんが「それはダメだろ」と全否定するものが、「知ったこっちゃない」と「そんなもんとちゃうん」である、らしい。
もちろん、あのOくんが、本気でそんなことを思って宣っているはずもなく、ひねくれ派だけに、おそらくは、逆説的な意味合いでの口癖なのだろう。
ちなみに、「知ったこっちゃない」とは、そっちの問題だろ、そっちで責任をもって解決しろよ、みたいな、そんな意味合いであり、「そんなもんとちゃうん」とは、問題点は色々とあるだろうけれど、世の中全体を見渡せば、それもまた普通に起こり得ることで、目くじらを立てるほどのことでもないだろ、みたいな、そんな意味合いである。
「アイツは、いつも、話がヤヤこしくなる度に、口癖のようにして、知ったこっちゃない、とか、そんなもんとちゃうん、などと言って、ドロロンと煙(ケム)に巻くんだよな~」
「Oくんの、その二つの口癖って、わかりやすく言ってしまえば、結局、前者は、自己責任、自助、ってことだろうし、後者は、根拠なき楽観主義、ってことですよね」
「自己責任、自助、根拠なき楽観主義、ね~。・・・たしかに、そう言い換えることもできるかも。となると、どこかの国の方針と似てなくもないか」
この国の、どころか、この星のそこかしこで、口を揃えて人々が、本気で、「知ったこっちゃない」、「そんなもんとちゃうん」などと、ナンの躊躇(タメラ)いもなく宣い出したとしたら、と、考えただけで、ナニやら鳩尾(ミゾオチ)あたりがキリリンと痛む。(つづく)