ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.834

はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と六十五

「アッチハアッチ コッチハコッチ」

 かつては人通りも多く賑やかであったという、ある、寂(サビ)れた商店街の片隅で、ヒッソリと、ながらも、タクマしく、地元に根差した人気のパン屋さんを営んでいるヤングマンが、ソコからホンの少ししか離れていない、インバウンド三昧の、まさに観光地観光地したそのエリアに、対して、サラリとこう言ってのけたのである。

 「アッチはアッチ、コッチはコッチ、ですから」

 ヤングマンのその言葉が、なぜか妙に私の心にまでスルリと届き、そのままソコに居残っている。

 アッチはアッチ、コッチはコッチ、か~。うむ、あらためて、いい言葉だと思う。

 「世界中のシモジモじゃないエライ権力者たちが、皆、『アッチはアッチ、コッチはコッチ、ですから』と思えていたら、ひょっとすると、戦争なんて起こっていなかったかもしれない、と、思うのです」

 「アッチはアッチ、コッチはコッチ?」

 「そうです」

 「たしかに、コッチはコッチ、アッチもコッチ、みたいなトコ、あるからな~」

 「そうです、ソレです。その、アッチもコッチ、というヤツが、戦争を引き起こす、と」

 「でも」

 ん?

 「でも、アッチはアッチ、コッチもアッチ。みたいな、そんなトコ、も、場合によってはあったりするから厄介なんだろうな」

 え?

 「つまり、『知ったこっちゃない!』。知ったこっちゃない、は、悪魔にも天使にもなり得る、ということだ」

 ええ?

 「君が言う通り、戦争は引き起こさないかもしれないが、人道的な立場からの、手を、差し伸ばすこともしなくなる、ということにも、なるかもしれないだろ」

 あ、あ~、そういうことか。

 たしかに、そういうこともあるのかもしれない。が、少なくとも、あの、パン屋さんを営むヤングマンの「アッチはアッチ、コッチはコッチ、ですから」は、間違いなく、天使の「知ったこっちゃない!」だと思う。(つづく)