はしご酒(Aくんのアトリエ) その九十五
「カンジョウテキ!」①
実は、と、神妙な面持ちで語り始めたAくん。
「若気の至り、と、言ってしまえばそれまでなんだけれど、不覚にも、職場で、声を荒げてしまったことがあるんだ」
愚痴やら文句やらは、それなりに鮮烈だが、だからといって声を荒げて相手を威嚇する、というイメージは、Aくんにはない。にもかかわらず、の、意外なカミングアウトだけに、少々驚く。
「ナニがあったのですか」、と、興味津々に尋ねてみる。
「そのときは、あまりにも理不尽、とでも思ったのだろうな」
ナニがあったのだろう。
「ようするに、全否定された、ということだ」
全否定、か~。
若さのその勢いを借りて、やみくもに己の信念に任せて発言しまくれば、当然のごとく叩かれもするし、場合によっては全否定もされるだろう。しかしながら、その程度のことでも、若さは、Aくんに、声を荒げさせてしまった、ということか。
「僕はね、学校の先生の仕事は、一にも二にも授業だと思っている。教材研究に、授業の工夫に、あらん限りのエナジーを費やしてほしい、という強い思いがある」
かねてからAくんは、勉強が得意とか苦手とかといったこととは関係なく、子どもたちがワクワク感満載で授業に参加できるような、そんな理想の授業づくりに学校の先生は邁進すべき、と、言い続けている。しかし、そのコトとこのコトとがどう繋がるというのか。
「だから、トップダウンで降りてくる、誰のためのものなのかが全くわからないような余計な業務に、常に反対の意を唱えることが、僕に課せられた使命とさえ思っていたのだけれど」
「ことごとく却下された、全否定された、ということですか」
「そう。それゆえに、言わなくてもいいようなことを言ってしまった、というわけだ」
Aくんは、いったいナニを言ってしまったのだろう。
「ナニを言われたのですか」
「僕の意見に、ではなくて、僕であるから、ナニからナニまで否定されるのではないのですか、ってね」
「それで、その方は、ナンて返されたのです?」
「そんなことはありません、と、返してくるものと勝手に思い込んでいたのだけれど、それが違った」
違った?。
おもわず、ググッと身を乗り出す。(つづく)