ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.747

はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と八十八

「タマヤ~カギヤ~カキコミヤ~」

 「火事と花火は江戸の花」、と、かなりの唐突さで、Aくん。

 ん?

 それも、間違っていないような気はするが、残念ながら少し違う。

 「火事と、喧嘩、は、江戸の花、だと思いますよ」

 へ?

 まさに、そういう顔の、Aくん。

 「そうだったかな~。ま、いいや、とにかく、火事と喧嘩と、花火、は、江戸の花、だったわけだ」

 ふ~む。

 活気に満ち満ちてはいるけれど、ナニかにつけてバタバタと、慌ただしく落ち着かない、そんな江戸の町だったとすると、この現代の東京という町と、そんなに違わないかも、などと、なんとなく思ったりする。

 「た~まや~、か~ぎや~」

 わ!

 突然の、Aくんの雄叫びに、タマげる。

 「鍵屋さんは今でも健在だ。でも、玉屋さんはアッと言う間に廃業してしまう。ナゼだと思う?」

 花火の掛け声と言えば、「たまや~」に、「かぎや~」と、相場は決まっている、ものの、それ以上のことを掘り下げて考えたこともないし、考えてみようとも思わなかった。

 「人気はあったわけですよね」

 「あったあった、ありまくりだ、・・・また聞き、だけどね」

 「でも、廃業した」 

 「そう、アッと言う間に、廃業した」

 「う~ん、ますます、わからないです」

 Aくんの目が、「よし!」、と、お構いなしに、そう吠えたような気がした。 

 「よし、よし、よ~し、教えて進ぜよう」

 素直に、最初から、サクッと教えてくれればいいものを。

 そんな文句を心の中でブリブリと宣いつつ、おもわずズズッと身を乗り出す。

 「それは、それはね、・・・、かじ、火事。トンでもない大火事、を、引き起こしてしまった、らしいんだよな~」

 か、火事、か~。

 「鍵屋も、玉屋も、素晴らしい花火師だったわけだけれど、どんなにブラボ~な花火であったとしても、一つ間違えればトンでもない火事を引き起こす。人々の生活を、命を、奪ってしまう。ソレなんだ、ソレなんだよ」

 ソレなんだよ、などと言われても、その、ソレ、とは、いったい。

 「同じコトが、ネットを賑わす、あの、書き込み、ってヤツにも言えたりするわけよ」

 書き込み、ってヤツにも、とは、いったい。

 「大いに、大いに人々を納得させる、共感させる、感動させる、そんな、夜空にパンパンと弾ける大輪の花火のような書き込みも、ひょっとしたらあるのかもしれない。けれど、まず、ナニはともあれ、僕たちが、絶対に忘れてはいけないコトは、そうした書き込みが、取り返しがつかないほどのトンでもない大火事を、引き起こしてしまうこともある、というコトだ」

 なるほど、なるほどな。

 突然、ナニやら思いっ切り、雄叫びを上げたくなる。

 もちろん、心の中で。

 た~まや~、か~ぎや~、か~きこ~みや~

(つづく)