はしご酒(Aくんのアトリエ) その五十八
「ヨウカイ オコメバナレ」①
「この世に妖怪数多(アマタ)おれど、この妖怪だけは、捨て置くわけにはいかない」、とAくん。
「そんな、捨て置けないほどの妖怪が、まだ、この世にいたりするのですか」、と私。
「いるいる。まだまだいたりするわけよ、不気味に蠢(ウゴメ)く妖怪がね。とくに、その中でもコイツだけは、と、かねてから注視してきたのが、この、実に厄介な妖怪、オ、コ、メ、バ、ナ、レ」
「オ、オ、コ、メ、バ、ナ、レ、ですか」
「そう、妖怪オコメバナレ」
「で、その厄介な妖怪が、どんな厄介なコトをしでかした、というのです?」
「ソイツたちはね、若者たちの耳元で囁くわけよ。ごはんは太るよ~。炊くのも面倒だよ~。パンも麺もあるからね~。とね」
そういえば、以前からAくんは、若者たちの米離れを憂えるにとどまらず、警鐘まで、しつこく鳴らし続けている。
「たしかにソレって、最悪だと思います。自他共に認める玄米ごはんフリークの私としても、ソイツたちを無視するわけにはいきません」
たとえば、米粒の端っこに申し訳なさそうにチョコッとへばり付いている「胚芽」。その秘密の花園は、スーパーなビタミン群やらナンやらの宝庫で、イライラや気持ちの落ち込みといった心のトラブルや、さらには血圧までも、を、ジワリジワリと、改善してくれたりもする、という。
にもかかわらず、Aくんが言うように、そんな妖怪ごときにしてやられっぱなし、ということでは、悔しいが、この国の、お米の未来は、どころか、食文化そのものの未来までもが、ホントに暗い、と、言わざるを得ない。
「その妖怪オコメバナレには、弱点みたいなものはないのですか」、と、Aくんに、ちょっとした憤りまで臭わせつつ尋ねてみる。
「弱点、か~。・・・・・・」
ヤ、ヤバイ。
またまた沈黙の扉を開けてしまいそうなAくんに、そうはさせまいと、「もっと身近なものにするためにも、大掛かりに税金を投入して、安全で良質なお米を、より安価に、みたいな感じにはなりませんか」、と、さらにソコに被(カブ)せてみる。
「ん~、それなりにいい案だとは思うし、僕も、清き一票を投じたいところだけれど、アレもコレも箇条書き風に考えがちなこの国のエライ人たちだけに、覚悟を決めて、未来のためにナニかに特化して、集中的に取り組んでいく、なんてことは、まず、あり得ないだろうな」
ということは、つまり、見渡すところ、その妖怪にとっての敵らしい敵は、悲しいかな見当たらず、ということなのだろうか。(つづく)