ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.600

はしご酒(Aくんのアトリエ) その四十一

「ヨウカイ オタメゴカシ」②

 「そもそも、オタメゴカシ、って、ナンなのですか」

 「ああ、オタメゴカシね。そうだな~、・・・。漢字で書いてみると、わかりやすいかもしれない」

 そう言うや否やAくんは、背後の机のその上に、何枚かあった小さな紙切れの一つに、サラサラとナニやら書きなぐると、スルリと私の方に滑らせる。見ると、その紙切れには、思っていたよりもウンと美しく、漢字で「御為倒し」と書かれてある。

 「これで、オタメゴカシ、と、読むのですか」、と、言った尻から、「あ~、こかす、たおす、の、こかす、ですよね、これ。たおす、の、こかす、からの、こかし、ごかし、か~、なるほどな~」などと、どこまでも自己完結っぽく悦に入る。

 「そうそうそうそう。ま、僕もよくわかってはいないんだけれど、私のことなんてどうでもいいのよ、あなたのために、御為(オンタメ)に、心から、言っているのよ、やっているのよ、というふうに、そう100%見えていたものを、そんなわけないだろ、バ~カ、と、一気にブッ倒す、みたいな、そんな感じが、その漢字からビンビンと伝わってくるだろ」、と、かなり雑で荒っぽい解説の、Aくん。でも、不思議に、わかったような気になってきたりもする。

 「つまり、度を過ぎた丁寧が、無礼さえも生み落とす、という、あの、慇懃無礼(インギンブレイ)の、親戚筋かナニかだということですね」

 「慇懃無礼の親戚筋か~。なるほど、・・・。でも、ひょっとしたら、場合によっては、もう少しタチが悪く、罪深い、かもしれない」

 「タチが悪く、罪深い、ですか」

 「シモジモである一般ピーポーが、こんな、妖怪オタメゴカシに、おもわず引き寄せられ、心、惑わされてしまう、などということは、仕方ないかな~、と、ギリギリのところで思えなくもないけれど、自分以外の多くの人たちのことを思うコトを、考えるコトを、生業(ナリワイ)にしているシモジモじゃないエライ人たちが、こんな妖怪ごときに心も魂も奪われているようでは、もう、絶望的な気持ちになってしまうだろ」 

 たしかに、その通りだ、と思う。

 人のことを慮(オモンパカ)る、考える、というようなコトが苦手であるのなら、少なくとも、そのコトを、生業なんかにしてほしくない、と、生意気なようだけれど、どうしても、どうしても、思ってしまう。(つづく)