ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.388

はしご酒(4軒目) その百と三十九

「トラワレ カラノ カイホウ」①

 「心」の時代だと、あらためて、その、「心」の底から思うよ、とAくん。

 かねてからAくんは、大切なものは、人であり、その、心なのだ、と、言い続けていたので、なんの違和感もなく、スッと胸の奥まで届く。

 「その、心の時代、だと、私も思います」

 得体の知れないモンスターに振り回されてきたような気がする。怪しい怪しいとは思ってはいたけれど、背に腹はかえられず、ジワリジワリとその術中にハマってしまい、気がついたときには、まさに時すでに遅し、とさえ思えてしまうほど、の、この今は、見事なまでに、そんな感じだ。

 穏やかで緩やかな時の流れが、生活が、日常の景色が、そうした得体の知れないモンスターによって大きく変容せしめられたのである。  

 なぜ、そうなってしまったのか。

 なぜ、そうなってしまうことに、なんの疑問も懸念ももつことがなかったのか。

 なぜ、疑問も懸念ももつことを忘れるほど、浮かれてしまったのか。

 なぜ、・・・。

 考えれば考えるほど迷宮に入り込んでしまいそうだ。

 「目に見えるもの以上に、目に見えない大切なナニかを、我々は、失ってしまったような気がするんだよな」、とAくん。

 「そのナニかとは、なんですか」、と私。

 するとAくんは、さて、なんだろうな、と、話をはぐらかすかのようにして、そのままフェードアウト。そのあと、しばらくの間、口を噤(ツグ)む。(つづく)