ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.390

はしご酒(4軒目) その百と四十一

「トラワレ カラノ カイホウ」③

 「般若(ハンニャ)なんちゃらですよね、それ」、と私。

 「そう、般若心経、正確には般若波羅蜜多心経。孫悟空の愛しき天敵としても有名な、あの玄奘三蔵による、膨大な経典の究極の圧縮版であると言われている、この262文字は、そんじょそこらの262文字じゃない」、と、会社の命運を左右する新商品の売り込みに躍起になる新入社員のような口振りで、熱く語るAくんに、なんだか少し笑けてくる。 

 「なんだけれど、正直なところ、そのなんたるか、みたいな、ど真ん中のところは、全くもって分かってはいないんだけどね」

 「そうなんですか。その道の伝道者みたいな様相を呈していましたよ」

 「それは申し訳ない。ただし、なんとなく思うことはある。ひょっとすると、人々が、知らず知らずのうちに、得体の知れないモンスターの、もしくは、そいつがヤラかしたこと、もたらした現象、の、囚(トラ)われ人のようになってしまっている、というコトからの解放の必要性を、この般若心経は、説いているのかもしれない」、と、ググッと抑え気味に語るAくんの、その「囚われからの解放」という言葉の意味を、自分なりに探りながら、もう一口、従兄弟筋にあたる超辛口をグビリとやる。(つづく)