ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.108

はしご酒(2軒目) その十

「ヨッ ハルダンジ!」

 Oくんの、なんとなく心地よい大阪弁を聞いているうちに、幼少の頃に、たまたまTVで見た、大阪弁まみれの、ある映画の、とくに不思議なラストシーンのことを思い出す。

 マキノ雅弘監督の『色ごと師春団治』(1965)である。

 Oくんの「幼少の頃に見る映画とちゃいまっせ~」という突っ込みには、聞こえないフリをして、話を続ける強気な私。

 藤山寛美演ずる桂春団治が、いよいよあの世へ、というそのとき、彼の魂が、ス~っと幽体離脱して、フワ~っと浮き上がり、部屋の天井あたりから、悲喜こもごものみんなを見渡す。周りが全く見えない、見ようともしない、そんなワガがワガがの春団治が、皮肉にも、いよいよあの世へ、というそのときに初めて、一人ひとりの内側を見ることになる。大昔のことなので、あまり自信はないが、そんな感じであったような(思い込みかもしれないけれど)気がする。

 いったんクールダウンした上で、今一度、少し離れたところから、落ち着いて全体を見渡してみる。すると、今まで見えなかったものが見えてくる、ということを、ひょっとすると、春団治の半幽霊は、ユルリと我々に教えてぐれていたのかもしれない、と私は勝手に思っている。

 とても残念なことだが、(全ての、とまでは言わないけれど)シモジモじゃないエライ人たちは、どうも、大きな権力を握れば握るほど、春団治のそのユルリとした教えに耳を傾けたくなくなるのでは、という思いが、私の中にはある。(つづく)