椀物 その弐
「デルクイハウタレル ケレド デスギタクイハ」
周りのことなど気にせず、自分を信じて、自分が「やりたい!」と思ったことをトコトンやる。最初は、イロイロと言われるかもしれないけれど、やがてナニも言われなくなる。きっと理解してくれる。
そう、そうなのだ。
「出すぎた杭(クイ)は打たれない」。
まさに、ど根性ドラマの金字塔のような名言である。
しかし、この名言の本質を見誤ると、残念ながら「出すぎた杭は抜かれ、そして、捨てられる」。
Aくんは、「見誤った人が抜かれて捨てられるのは致し方がないんじゃないのか」、と、手厳しい。たとえ抜かれ捨てられようが、捲土重来(ケンドチョウライ)、一からもう一度、やり直せばいい!、ということらしい。
ただ、見誤っていないにもかかわらず、「抜かれて捨てられる」ことがあるのではないのか、と、Aくん。そんな、ひょっとしたらあるかもしれない理不尽まみれのその一点に関しては、彼なりに、ソレなりに、心配はしているようだ。
窓際(マドギワ)に佇(タタズ)む、牙を抜かれた老兵たちを、時折見かけるにつけ、Aくんのその懸念、あながち的外れではないのではないか、と、私も、結構ズシンと重く、思ったりすることがある。(つづく)