はしご酒(Aくんのアトリエ) その七百と五十一
「シチミ ゴエツ サンエ」
「『明けましておめでとうございます』の年始、元日、お正月は、いい意味での『リセット』でもあったんだろうな」
リセット?
リセット、か~。
「そんな、この国独自のこの特別感は、年始よりはクリスマスに重きが置かれている西洋諸国のピーポーたちには、そう簡単には理解なんてされないかもしれないがな」
なるほど、そうかもしれない。
私たちとってのクリスマスが、ほぼ単なるウインターイベント以外のナニモノでもないように、この国のお正月もまた、ほぼ単なる年始のイベント以外のナニモノでもないと思われてしまいがち、なのだろう、きっと。そんな気がする。
ただ、その特別感、果たして、・・・。
「頼まれゴトがあって、不本意ながらも元日に、ある複合型商業施設、ショッピングモールに、行かなければならなくなって」
「お正月からショッピングモールとは、なんとも忙(セワ)しない話だな」
「おっしゃる通り、情けなくなるほど忙しない話なのですが、その、ショッピングモール、私が見た限り、『SALE 』という文字はあったものの、ドコにも、『新年』も『お正月』も『ハッピーニューイヤー』も、なかったのです」
「ほ~。それ、かなり興味深いな」
「おそらく、コレもまた、ナンでもカンでも『コスパ』、からの、『コストカット』なのでしょうけど。この国においても、この国のピーポーたちにおいても、すでに、もう、そんな風に、お正月は、風前の灯なのかもしれないな、って」
「つまり、つまりだ。年賀状じまい、どころか、お正月じまい、なんじゃねえのか、って、コトだよな」
お正月じまい?
お正月じまい、か~。
「そう、そうです。なんだか、ドンドンと、そうした特別感が、私たちの中からも消えていきつつあるような気がして」
「ん~、寂しい話だよな~」
そう、寂しい、寂し過ぎる話、なのである。
「と、なると、たとえばさ~」
ん?
「江戸時代の一般ピーポーたちは除夜の鐘を聞きながら、シッポリと七味五悦三会(シチミゴエツサンエ)を振り返っていた、なんてコトも、現代人からしてみれば、アホくさ、邪魔くさ、ってなもんなのかもしれねえな」
し、しちみごえつ、さんえ?
初めて耳にする。
「ナンですか、それ」
「もし、この一年が、七つの美味いモノに、五つのステキなコトに、三人のヒトに、出会えた一年であったとしたら、この一年は、充分すぎるほどBravo(ブラボ~)な一年だったな~、って、一人で、あるいは家族で、振り返りつつ、新しい年を迎えていたらしいぜ」
うわ~、いいな、それ。
「まさに、古き良き、この国独自の特別感ですよね」
「だよな~」
コスパやらタイパやら、アホくさ、やら、邪魔くさ、やら、が、胸を張って闊歩するこのご時世だけに、この国に限らず、それぞれの国においても、そういった独自の特別感は、失うべきではない、とても大切なモノのような気がする。(つづく)