ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.699

はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と四十

「タカガ ベーコン サレド ベーコン」①

 あまりにドッと疲れ果てたせいだろうか、ナニを思うということもなく、ただボンヤリと、再び、棚に並ぶ何冊かの書籍たちに目をやる。

 ん?

 Francis Bacon?

 フランシス・バコン?

 ナニ者だ?

 デフォルメされた筋肉が、さらにグニュッと有機的に捻(ネジ)られたような人間らしきモノが、紐で吊られたボードの上で佇(タタズ)んでいる。そんな、摩訶不思議な表紙が妙に気持ちいい、一冊の画集っぽい洋書を見つけたものだから、おもわずAくんに尋ねてみる。

 「ナニ者ですか、この、フランシス・バコン、って」

 「あ~、ソレね、いいだろ。お気に入りの一冊なんだよね。ちなみに、彼の名前は、バコン、ではなくて、ベーコン、フランシス・ベーコン。その生きざまもまた実に興味深い、イギリスの画家だ」

 えっ、

 顔が熱くなるのを感じる。

 ベーコン、か~。

 ベーコン、bacon ?

 このスペル、同じだ、間違いない。

 同じだと気付いた途端に、その、有機的に捻れたような筋肉が、豚肉を塩漬けにしたあのベーコンそのものに見えてくるから不思議だ。

 「ベーコンみたいですよね」

 一瞬、「ん?」という表情を浮かべたAくんではあったけれど、すぐさま、「あ~。たしかにコレなんか、かなりいい肉質のベーコンに見えなくもないか」、と、太股(フトモモ)らしき部位を指差しながら、納得の表情に切り替わる。

 「あっ」

 ナニを思い出したのか、Aくん、またまた奥へと姿を消す。

 バタン、ガタン、トントン、と、ナニやら作業を始めた様子で、しばらくは戻ってきそうにない。

 なんとなく、パラリパラリとページをめくってみる。

 ナンだろうな、この感じ。

 ネチャッとした粘性のある光沢感が、やっぱり、ナンとも気持ちいいのである。おそらく、この独特なテイストが、豚肉の方のベーコンを思い起こさせる要因の一つなのだろう。

 ん!?

 なんだ、この香りは。

 いい香りだ。

 ま、まさか・・・。(つづく)