はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と五
「ザッツ ザッソウ!」①
少し前、ある映画をナニゲにボンヤリと見ていた時のこと。準主役的な立ち位置の男性が、雑草を毟(ムシ)りながら、こう宣うわけ。
「名前のない雑草なんてない」
この、ナンてことのないセリフが、ナゼか頭の中にへばりついてしまったんだよな~。
などと、ほとんど独り言のように静かに呟く、Aくん。
名前のない雑草なんて、ない?
「名前がないから雑草なんじゃないんですか?」
と、おもわず、あまり考えることもせず、思ったコトをそのまま口に出してしまった、私。
するとAくん、ニンマリと笑みを浮かべて、「実は、全く同じコトを僕も思っていた」と、事を荒立てることなく、私との距離を一気に縮めてくれて、とりあえずホッとする。
そもそも雑草に、いいイメージなんてなく、邪魔者以外のナニモノでもない、というのが正直な私の気持ちだ。
そんなことを思ったりしていると、テーブルの上にトンと一冊の本が置かれる。
「そんな雑草のことが気になって、その日の内に本屋へ買いに行ったんだよね」
雑草図鑑?
おもむろに開いてみると、イラストがリアルで美しい。
「写真かイラストかで悩んだのだけど、自称、絵描きの性(サガ)ってヤツかな、その本をチョイスしていた」
タンポポ?
雑草なんだ。
ん?
あっ!
タンポポ、名前、名前だ。そうか~、名前が、あるんだ。
名前がないから雑草なんじゃないんですか、などと、エラそうに宣ってしまったことを後悔する。
「タンポポ、雑草なんですね」
「そう、バリバリの雑草。タンポポ、のみならず、和、の、雑草、和雑草のその名前が、メジャー系の草花の名前よりも、ウンとキュートだとは思わないかい」
パラパラとページをめくる私の指が止まらない。
ミズヒキ
誰がコレらの名を、雑草たちに付けたのだろう。一つ一つが、キュート、目一杯、キュートで、あらためて、この国の先人たちの美意識とそのセンスに、思いっ切り、感心する。
ザッツ雑草、愛らしき邪魔者たち。決してナメてはいけないのである。(つづく)