ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.764

はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と五

「ザッツ ザッソウ!」①

 少し前、ある映画をナニゲにボンヤリと見ていた時のこと。準主役的な立ち位置の男性が、雑草を毟(ムシ)りながら、こう宣うわけ。

 「名前のない雑草なんてない」

 この、ナンてことのないセリフが、ナゼか頭の中にへばりついてしまったんだよな~。

 などと、ほとんど独り言のように静かに呟く、Aくん。

 名前のない雑草なんて、ない?

 「名前がないから雑草なんじゃないんですか?」

 と、おもわず、あまり考えることもせず、思ったコトをそのまま口に出してしまった、私。

 するとAくん、ニンマリと笑みを浮かべて、「実は、全く同じコトを僕も思っていた」と、事を荒立てることなく、私との距離を一気に縮めてくれて、とりあえずホッとする。

 そもそも雑草に、いいイメージなんてなく、邪魔者以外のナニモノでもない、というのが正直な私の気持ちだ。

 そんなことを思ったりしていると、テーブルの上にトンと一冊の本が置かれる。

 「そんな雑草のことが気になって、その日の内に本屋へ買いに行ったんだよね」

 雑草図鑑?

 おもむろに開いてみると、イラストがリアルで美しい。

 「写真かイラストかで悩んだのだけど、自称、絵描きの性(サガ)ってヤツかな、その本をチョイスしていた」

 タンポポ

 雑草なんだ。

 ん?

 あっ!

 タンポポ、名前、名前だ。そうか~、名前が、あるんだ。

 名前がないから雑草なんじゃないんですか、などと、エラそうに宣ってしまったことを後悔する。

 「タンポポ、雑草なんですね」

 「そう、バリバリの雑草。タンポポ、のみならず、和、の、雑草、和雑草のその名前が、メジャー系の草花の名前よりも、ウンとキュートだとは思わないかい」

 パラパラとページをめくる私の指が止まらない。

 ナズナ

 ハゼラン

 ヒメジョオン

 ホトケノザ

 ミズヒキ

 ヤブガラシ

 ユウゲショウ

 誰がコレらの名を、雑草たちに付けたのだろう。一つ一つが、キュート、目一杯、キュートで、あらためて、この国の先人たちの美意識とそのセンスに、思いっ切り、感心する。

 ザッツ雑草、愛らしき邪魔者たち。決してナメてはいけないのである。(つづく)