ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.777

はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と八

「ナニモナニモ チイサキモノハ ミナ ウツクシ」

 「なにもなにも、ちいさきものは、みな、うつくし」

 ん?

 「これ、あの、清少納言の傑作エッセイ、『枕草子』の中の、滅法、キュートなワンフレーズ。彼女が生きていた頃の『うつくし』は、ビューティフルというよりは、むしろ、キュート。そう、cute 。しかも、愛情に満ち満ちたキュート、言うなれば、loving cute 。だったみたいなんだよね」

 んん?

 「ま、枕草子、ですか」

 「読んだこと、ない?」

 「自慢じゃないですけど、教科書でしか知りません」

 「そんなもんだよ、みんな。もちろん、僕にしても、たまたま、ソコのトコロだけ読む機会があっただけのことで、ほとんど教科書でしか知らない」

 なんとなくホッとする。

 「あの清少納言のことだから、その、ちいさきこと、の、ちいさき、は、おそらく、単なる物理的な大きさのことなんかじゃ」

 「ない、と」

 「そう。もっと、もっと内面的な、精神的な」

 「ものだ、と」

 「そう。しかも、清少納言が言いたきことは、ちいさきこと、というよりは、むしろ、おおききこと、だったんじゃないか、ってね」

 「お、おおききこと?。おおききことは、みな」

 「みにくし」

 「み、みにくし?。なにもなにも、おおききことは、みな、みにくし、ですか」

 「そう。もう一度、言うけれど、物理的な大きさのことじゃ、ない」

 う~ん、物理的な大きさのことではない「おおききこと」、とは、いったい。

 「清少納言本人に直接聞いたわけじゃないから、僕の勝手な推測の域を越えないのだけれど」

 ひょっとすると、Aくんなら、どんな手を使ってでも清少納言とアポイントを取って、独自取材を敢行、なんてこともあり得るのかも、などと、バカげた妄想に浸っていると、Aくん、ユルリと、こう結論付ける。

 「たとえば、仮に、僕が、大きな権力やらお金やらをガッシと握っていて、慢心して、態度もデカく、尊大で、傲慢で、みたいな感じだったとしたら、そんなヤツと一緒に呑もうなんて、微塵も思わんだろ」

(つづく)