はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と六十八
「サワラヌカミニ タタリナシ!」
「触らぬ神に祟(タタ)りなし!」
相変わらず、キレのいい唐突感を前面に押し出して雄叫びを上げる、Aくん。
「えっ?」
相変わらず、キレの悪い理解力で、即座に、その意図を汲み取れない、私。
「やめとけ、やめとけ~、へんに関わると厄介なことになるぞ~、ってことだ」
あ~。
「で、でも、その気持ち、わからなくはないですよね。あえて、リスクを冒(オカ)してまで火中に飛び込まなくても、というその気持ち、少なくとも私は、そう簡単には払拭できそうにありません」
情けない話だが、嘘偽りのない本音を、そのまま述べてみる。
「そうだな、たしかに、わからなくはないし、払拭できそうにもない」
またまた、少しホッとする。
「しかし、しかしだ」
ん?
「関わることが仕事、って人たちが、そんなコトを宣い出したとしたら、どうだい」
関わることが、仕事?
「たとえば、ジャーナリズム」
んん?
「ジャーナリズム精神をその中核に据えて仕事をしている人たち、しなければならない人たち、と、言った方がわかりやすいかもしれない」
あ、あ~。
「家庭もあるし、子どもの学費も嵩(カサ)むし、出世もソコソコしたいし、老後のことも気になるし、トにもカクにも邪魔くさいコトになりそうだし、などという、そんな、あまりにも一般ピーポー的な、小市民的なものの考え方に、天下のジャーナリズム精神までもが侵食されかけているとなると、もう、マジで世も末かもな」
ん、ん~。
数多ある職業の中で、ジャーナリズムを選んだ「報道のエース」たちが、仮に、そんなコトになっているとするなら、たしかに、もう、Aくんが言うように、世も末なのかもしれない。
「で、でも、それでもやっぱり、私は、ジャーナリズムに携わる人たちだけは、この、不条理満載の、複雑極まりない現代社会における『報道のエース』たちであってほしいです」
「つまり、つまりだ。失礼ながらも神さまに、触って触って触りまくらせてもらっているからには、祟りでもナンでもドンとこんか~い、ぐらいの覚悟は、とっくにできているぜ~、みたいな、そんな、トビッキリの『報道のエース』たちであってほしい、わけだ、君は」
(つづく)
追記
テレビで会えない芸人。
やっぱり松元ヒロさんは面白い。
その笑いの中に、この国の、この星の、捨て置けない危険なナニかを不敵に臭わす。
あらためて、そんな彼が足を洗った、魂を失いつつある「テレビ」という名のモンスター、の、その現状を、行く末を、憂う。