はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と六
「ザッツ ザッソウ!」②
そんな雑草たちに見とれているうちに、ハッと、以前、北陸方面を旅した時のことを思い出す。
七尾線。
たまたま、どこかの駅で遭遇した、デビルマンたちで華やかにラッピングされた列車に、子どものように燥(ハシャ)いでしまったことも、いい思い出だ。
そして、雑魚(ザコ)。そう、懐かしの雑魚たち。
同じように、雑魚も、名前のない雑魚なんてない。そのコトを、シッカリと知らしめてくれた、滅法、安くて、旨くて、雰囲気のいい、あるお寿司屋さんで、私は、珠玉のひとときを過ごすことになる。
聞いたことがないような白身魚の握り寿司が、実にいいテンポで次から次に目の前に出される。その時の雑魚たちには申し訳ないのだけれど、大将が説明してくれたそれらの名前を、何一つ思い出すことはできない。でも、ホントに、ホントに泣けてくるほど旨かったのだ。
そうだ、そうだった。
名前のない雑魚なんてない。
ザッツ雑魚、愛らしき脇役たち。決してナメてはいけないのである。
そんな、あの日のあの雑魚たちのコトをなんとなく思い出しているうちに、雑人(ザッピト)もまた良いな、などと思えてきたりする。
「ほら、巷には、上級国民などとモテ囃されたり、あるいは、揶揄(ヤユ)されたりしているシモジモじゃないエライ方々がおられますよね。でも、そんな怪しき高価な花でなくても、高級魚でなくても、雑草でいい、雑魚でいい、雑人でいい、と、マジで思ったりするのです」
「ザッピト?、あ、あ~、雑人、なるほど、雑人ね」
雑草や雑魚と同様に、名前のない雑人などいない。ザッツ雑人、愛らしき不屈の魂たち。決してナメてはいけないのである。
あらためて、あらためて、雑草、雑魚、雑人、たちに、心を込めて、カンパイ!
そう心の中で力強く呟いた私は、しばらく放ったらかしにされて、ボヤンとヌルくなってしまっていた酒を、申し訳なさそうにグビリと呑み干す。(つづく)