はしご酒(Aくんのアトリエ) その九十一
「ベンドクタイショウ」②
まえがき - 小野正嗣
きものや帯には、定められた寸法、つまり「型」がある。その「型」という厳然たる制約のなかで、作家たちが、染め、織り、刺しなどの技を通じて表現する〈色と形〉の多用さには驚くべきものがある。
ここには、八人のきものの作り手たちの肖像が収められている。・・・
私の中のトビッきりな重要キーワードであるだけに、いや、あるからこそ、逆に、いつだってモヤモヤとしがちな個性とか自由とか表現とかといったモノ、の、あるべき姿のそのヒントが、サラリと書かれているような気がして、その冒頭の部分をもう一度スピードを落として読み返す。
「まえがきから、期待感が高まりますよね」
「だろ。その中に、ものづくりの美しき哲学が、ギュッと凝縮している」
なるほど、哲学がギュッと、か~。無性に、無性にその続きを読みたくなる。
「コレってお借りできますか」
「又貸しになるけど、いいよ、どうぞ」
又貸し?
「どなたかに借りておられるのですか」
「あ~、ほら、あの、キモノ美人。彼女が、読んでみて、と言って置いていった」
「いいのですか、又貸しなどして」
「いい、全然いい。その本、もう又貸しだらけの人生を、本生(ホンセイ)を、かな、今までに歩んできているから、全くもって問題なし」
出所(デドコロ)があのZさんならなおのこと、更に一層、期待感が高まる。
「じゃ、お言葉に甘えて」
小野正嗣の『作り手の春夏秋冬』、品のいいワクワク感が止まらない。(つづく)