ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.607

はしご酒(Aくんのアトリエ) その四十八

「タマシイ ト イノチ ト カゾク ト センソウ ト ケンリョク ト ゲイジュツ ト」②

 その、「ものすごいお年寄り」な謎の老人に対するフツフツと湧き上がる興味が、全くもって収まりそうもない中で、「老人とAくん」物語は、いよいよ本編に突入する。

 「そのお年寄りとは何度か酒を酌み交わしたのだけれど、とくに二度めの出会いは、センセーショナルでドラマチックだったんだよな~」

 「セ、センセーショナルでドラマチック、ですか」

 私の中で湧き上がっていた興味の上に、さらに興味が幾層にも重なって、まるでミルフィーユのようになってしまっている。

 「ある日、僕は、苦手な事務仕事にバカみたいに手間取って、かなり遅くに帰宅することになる。あまりに疲れ切っていたので、晩ごはんもお風呂もパスして、そのまま寝てしまおうか、などと画策していると、突然、ピンポ~ンとチャイムが鳴る。ん?、と、訝(イブカ)しみながらドアを開けると、なんと、呑みましょう、って、これ以上ないぐらいの和やかな表情で語り掛けてくる、その、ものすごいお年寄りが、立っているわけよ、ソコに」

 「ちょっとした、サイコなスリラー映画みたいですね」

 「そう、サイコ。話だけ聞くと、そう思うのも無理はない。でも、いい顔してソコに立っているんだな~。で、呑みましょう、なんて言われてごらんよ、よし、呑みましょう、ってことになるだろう、自然な流れとして」

 なるかな~、と、正直思いはしたけれど、そのことは黙っておくことにして、「でも、住んでいるところが、よくわかりましたよね」、と私。

 「あ~、僕のアパートから、ホントにすぐソコの居酒屋だったから、酔った勢いで、アソコに住んでいるんです、みたいなことを、ベラベラと話したりしたんだろうな~、おそらく」

 どうやら、個人情報なんて言葉が、この世に誕生する前の、そんな古き良き時代の、「老人とAくん」物語であるようだ。(つづく)