ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.1308

はしご酒(Aくんのアトリエ) その七百と三十九

サイコパスポピュリズム ト ブンダン ト」

 すると、限りなく、あのパン屋の、あのライ麦パンに近い匂いと共に、Aくんが戻ってきた。

 「冷凍していたヤツだからな~、どうだろ。ま、食べてみてよ」

 うおっ。

 やっぱり。

 「ライ麦パンですよね」

 「そうそう。石窯で焼かれた本格派なんだけれど、もう一ヶ月以上、冷凍庫の中で冬眠していたから」

 「大丈夫です。ライ麦パンは屈強、無敵、ですから」

 「屈強?、無敵?。推すね~」

 テーブルの上に置かれた皿には、薄く輪切りにされた小振りのライ麦パンが、4枚、寄り添いながら行儀良く並んでいる。

 するとAくん、ナニかを思い出したのか、慌てて、奥へ。と、思ったら、珍しく秒速で舞い戻る。手には赤ワインらしきボトル。と、おそらくオリーブオイル。

 「これこれ。ま、ちょっと試してみてよ」、と、宣いつつ、グラスに、ソレを、トクトクと注ぎ入れる。

 赤ワインとライ麦パンとの相性の良さは、私も経験済み。

 せっかくアツアツに焼いてくれているので、冷めないうちに、一つ、カシッと。実に、いい音、美味しい音だ。

 カシッ、カシッ。

 うわっ、美味い。コレはコレで、かなり美味しい。

 ソコに、その赤ワインをグビリと。

 うわわわわっ、合う。やっぱり、というか、思っていた以上に、合う。

 「かなり濃縮感があるのにフレッシュでフルーティー。コレ、いいワインですね。ライ麦パンとの相性もいい」

 「だろ。大阪も、ヤルよな」

 自慢げな、Aくん。

 ほ~、大阪の、赤、なのか。

 「でだ」

 ん?

 「結局」

 んん?

 「ソフトでマイルドなサイコパスに、小狡(ズル)く戦略的な知能犯たちがスルスルと擦り寄って」

 あっ、サイコパス。 

 「いや、むしろ、引き寄せてしまうのかもな」

 Aくんなりに考えてくれていたんだ。

 「挑発的であって耳障りのいい、そんな話たちを駆使し、ポピュリズムの風を巻き起こし、その風を上手い具合に利用して、大衆の心を掴み、トドメに、分断。きっと、あの人たちにとっては分断も、蜜の味なんだろう」

 あ~、よくある手口。

 「なんだか、まさに、チーム、サイコパス、ですよね」

 「そう。ソコにダークな旨味があれば、ダークなピーポーたちは群がる。ってこと。チームになってしまえば、もう、個人がソフトとかマイルドとかなんて関係ない。そして、トンでもないコトにさえ繋がりかねない。つまり、つまりだ。厳しいコトを言うようだが、要するに。己を真っ当にコントロールできないような人間は、大いなる責任あるポジションに身を置くべきではない、ということだ」

 なるほど。

 「ま、少なくともその赤ワインは、己を真っ当にコントロールできる造り手だからこそ造り上げることができた逸品。だと思う。己をコントロールできずして、こんな繊細なモノ、造れっこないだろうからな」

 たしかに。

 もう一齧(カジ)り、カシッと。

 もう一呑み、グビリと。

 ん~、いいワインだ。

 「最高だろ。ノンアルコール、だけど」

 「最高です。この、ノン、ん?、ノン?。ノ、ノン、ノンアルコール!?」

(つづく)