はしご酒(Aくんのアトリエ) その七百と四十一
「ゲンシ ジョセイハ タイヨウデ アッタ」
「大学での一般教養のナニかの科目で、で、あったと思う。ナゼか『平塚らいてう(ライチョウ)』が妙に気になって、彼女絡みの本を何冊か図書室で借り、レポートを書いたわけなんだけれど」、と、唐突に語り始めた、Aくん。
ひらつか、らいちょう?
「遠い昔のコトゆえ、どんなレポートを書いたかは、ほとんど覚えていない。のだけど、ナゼか、ナゼかブルーストッキング、と、伊藤野枝、と、『原始、女性は実に太陽であった』、だけは、頭の中の隅にへばり付いたままなんだよな」
原始、女性は、太陽?
「あっ、あ~、あの、卑弥呼、ですよね」
「の、コトなのかもしれないが、結局、女性が太陽であった、などという史実があってはマズいと、当時の関係諸氏に思われたんだろうよ。そんな卑弥呼をもってしても、この国の歴史上からスコッと消されてしまう」
消されてしまう?
「消されてしまったのですか」
「ドコにも書かれちゃいねえからな」
ドコにも書かれていない?
「ですが、ドコかには書かれていた、ってことですよね。だから誰もが知っているわけでしょ、『卑弥呼』という名前を」
「申し訳ない。言葉が足りなかったな。その『ドコにも書かれちゃいない』の『ドコにも』のドコは、この国の書物のドコにものドコね」
早口言葉か。
「たとえば古事記とか日本書紀とか。の、ドコにも。って意味。大体あ~いうのって、男が書いたもんだからな」
あ~。
そして、そんな男たちの手によって、ダレかにとって都合が悪いモノがダレかにとって都合よく消し去られていった。か。
「原始、女性は実に太陽であった。つまり、つまりだ。ヨソからの光あっての、月。青っ白(チロ)い、月。ではなくて、自ら燃え盛る、光を放つ、太陽たれ!、と」
月ではなく、太陽たれ、か~。
「消し去られた原始の太陽を、今一度、私たち女性のチカラで。という、パワフルな決意表明、宣言だな」
なるほど、なるほどな。
「ソレって、あの、野村克也の名言、『王や長島は向日葵(ヒマワリ)。私は日本海の海辺に咲く月見草(ツキミソウ)』、ですよね」
「ソレは、違う」
「えっ」
(つづく)