ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.1280

はしご酒(Aくんのアトリエ) その七百と十一

「マダ ソンナコト イッテイルノカヨ」①

 大慌てで駆け込んだトイレは、新しくはないが掃除が行き届いており、不潔な印象は微塵もない。そんな便器のその蓋を開けてチャチャッと用を足そうとすると、その蓋の裏に、ナニやら一枚の紙がペタリと。

 ん?

 「大も小も座ってしてね」

 大も小も、座ってしてね?

 その紙には、そう書かれていた。

 もちろん、Aくんだけに、その文字は、かなりアーティスティックではあったのだけれど、そのお触れの内容はアーティスティックでもナンでもなく、ストレートで、シビア。そのストレートさに、シビアさに、小心者の私は、電光石火で「立位でモード」から「座位でモード」に切り替えたのである。 

 ふ~、・・・。

 ソンなコンなで、ナニはともあれ、無事、用を足し終えた私は、安堵の中、帰還。しかしながら、なんだか妙な疲労感。

 するとAくん、まるで、あの、「待ちかねたぞ、武蔵」のごとく、待ってましたとばかりに「実は、エディ・アーノルド、1954年のヒット曲だったんだよな~」、と。

 ん?

 もちろん、ナンのコトやらサッパリ。

 「あまりにも、なかにし礼の歌詞がドンピシャだし、菅原洋一だってパーフェクト。だから、すっかり、メイドインジャパンだと勝手に思い込んでいた、あの名曲、『知りたくないの』。とりあえず、ココは、もう一回、歌っておかないわけにはいかないか」、と、顔中、歌いたい感満載で、捲し立てる。 

 あ、あ~、知りたくないの、か。

 「い、いえ、もう、充分、堪能しましたから」、と、間髪入れずに、結構です感満載に、私。新たなる疲労感も加わって、ちょっとした疲労感のミルフィーユ状態。

 なぜなら、今宵だけでも、もう、すでに2度。過去を遡(サカノボ)れば、その回数、数え切れない程。Aくんには申し訳ないが、さすがにもう充分である。

 とはいえ、その、『知りたくないの』がエディ・アーノルドなる方の往年のヒット曲だった、というコトは、私も、全くもって知らなかった。

 「僕、個人としては、エルヴィスのヤツがお気に入りなんだけどね」

 「エルヴィス、って、あ、あの、エルヴィス・プレスリーですか」

 「そう。彼のが、また、いいのよ。ちなみに、僕が映画館で見た最初の洋画は『エルヴィス・オン・ステージ』だからね」

 エルヴィス、オン、ステージ?

 「彼のドキュメンタリー映画かナニかですか」

 「そう。数あるライブを繋いでつくり上げた、音楽メインの、そんなドキュメンタリー映画だったな。大画面の中で歌うわけよ、彼が」

 そんな映画があったんだ。

 「今じゃ、考えられないと思うけど、お客さんでイッパイだったんだぜ」

 お~。

 古き良き、映画の、映画館の、時代、か。 

(つづく)