はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と百と四
「センソウヲ ヤメヨウ!」
僕が青春真っ只中であった頃、友人が、「レコードを買いに行きたい」と言うので、自転車をかっ飛ばして行ったわけよ、隣の駅にある商業施設内のレコード店に、と、50年ほど前まで遡(サカノボ)りながら語り始めた、Aくん。当時、シングル盤ではなく、LP盤を購入する、という行為そのものが、ちょっとしたセンセーショナルでエモーショナルなイベントだったんだ、と、懐かしそうに振り返る。
「で、そのお友だちは、いったい、ナニを、購入されたのですか」
「悩みに悩んだあげく、あるLP盤を買ったのだけれど、やっぱり、もう一方のLP盤のことが、どうしても忘れられず、店員さんにお願いして交換してもらった、という、その、曰く付きのLP盤とは」
「そのLP盤、とは?」、と、あまりにもAくんが勿体ぶるものだから、おもわず身を乗り出しつつ、焦りぎみに問うてしまう。
「グランド、グランド・ファンク」
ん?、んん?
「グランド・ファンク・レイルロード、の、『戦争をやめよう』」
「グランド?、ファンク?、レイルロード?、の、戦争をやめよう?、ですか。なんか、隅から隅までハードロックって、感じですよね」
「たしか、A面の、何曲目かの♪People, Let 's Stop The War、の、その邦題が、そのままLP盤のタイトルになっているのだけれど、その曲の、その演奏の、理屈抜きのストレートさが、いかにもグランド・ファンク・レイルロード、って感じで、実に気持ち良かったわけだ」
そうだ、きっと、そうなんだと思う。
イロイロと、ヤヤこしいコトばかりが満載な上に、アレやコレやとつまらない理屈ばかりを捏(コ)ねくり回したりするものだから、私たちの本心も、思考も、目指すべきものも、訴えなければならないはずのものも、ナニもカも、グチャグチャッとワケがわからなくなってしまうのだ。
「その、その理屈抜きのストレートさ、こそが、ここ一番というその時にとって、最も大切なモノのような気がします」
するとAくん、おそらくその曲のサビの部分かナニかなのだろう、躊躇(タメラ)いなど微塵も見せることなく、思いっ切りコブシを回しながら声高らかに歌い始めたのである。
People, Let 's Stop The War~
People, Let 's Stop The War~
People, Let 's Stop The War~
People, Let 's Stop The War~
(つづく)