ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.1287

はしご酒(Aくんのアトリエ) その七百と十八

「ヒエヒエノ ヒヤシアメ ト ホコリ ト ヤリタイ シゴト ト」

 「僕が、まだ、漫画家になれる!、と、信じて疑わなかった幼少期。よく、一緒に遊んでいた友だちが、ナゼか、絶対に冷やし飴屋さんになりたい、と、僕にその胸の内を熱く披露してくれたりしていたわけよ」、と、遥か昔を懐かしむように語り始めた、Aくん。

 「ひ、冷やし飴屋さん、ですか」、と私。冷やし飴屋さんなんて、初めて耳にする。

 「夢多き幼少期。『ナニになりたい?』などとお互いに聞いてみたりして」

 「で、そのお友だちは、その、冷やし飴屋さん、だったのですね」

 「そうそう」

 「でも、ナゼ、冷やし飴屋さん、だったのですか」

 「あったんだよ、気のいい老夫婦が営む、実に美味い冷やし飴屋さんが」

 老夫婦が営む冷やし飴屋さん。昭和テイストの映画あたりに出てくる駄菓子屋さんのような、そんなイメージか。

 「冷え冷えの冷やし飴をアルミ製の杓子(シャクシ)で掬(スク)って、厚手のグラスに注いでくれるのよ、トクトクトク~ッとね」

 不思議だ。

 ほとんどいただいたこともないし、味の記憶もないけれど、なんだか無性に、その冷やし飴というヤツを飲んでみたくなる。

 「大袈裟かも、単純過ぎるかも、しれないが。僕はね、やりたい仕事って、ソンなもんじゃないか、ソレでいいんじゃないか、って、思っている」

 ん?

 「美味しい。その美味しいをつくりたい、売りたい。美しい。その美しさをつくりたい、売りたい。品質がいい。その品質の良さをつくりたい、売りたい。もちろん、仕事は、そういうものばかりじゃないと思うけど、少なくとも、美味しくない、美しくない、品質が良くない、モノを、つくりたい、売りたい、とは、普通、思わないだろ」

 思わない。

 「自分が、いいな、ほしいな、と、思わないモノを、コトを、仕事にしなければならないのは、やっぱり、辛いよな」

 辛い。かなり、辛い。

 「で、でも、たいていは、納得できる仕事になんて就けないですよね」

 「ん~、・・・。理想と現実との不一致。ズレ。たしかに容易くはない。だけど、己の仕事に『誇り』だけはもちたいよな」

 「誇り、ですか」

 「誇れる、愛おしい、モノ、コトに、自分が関われる。携(タズサ)われる。仕事にできる。そうでないと、心がもたないような気がするんだよな~」

 心が、もたない、か~。

 私を含めた全てのピーポーたちが、できることなら、己の心のためにも、そうであるべきだと思う。そうでなければ、Aくんの指摘通り、心がダメになってしまうような気さえする。けれど、たとえば、アレだけ裏金やら利権やらカルトやらにダークに絡みまくっているあの世界のあの人たちは、そんな誇れる、モノ、コト、で、なくても、心がもたないなんてことは、ない、かも、しれないな。(つづく)