ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.210

はしご酒(3軒目) その三十九

「フリマワサレテハ」①

 この帯だけは、と、あらためて、自慢げに見せてくれた、今宵のZ’さんのその重厚な黒を基調とした角帯は、和紙まで織り込んだ米沢織であるらしく、たしかに、たいていの着物男子心(キモノダンシゴコロ)をくすぐる、かもしれないな、と、思わせる逸品ではある。旅先で、思わず勢いで購入してしまった、とのこと。

 ただし、その購入の際も、迷えるZ’さんのその背中を、思いっきり押してくれたのは、やはり、Zさんであったらしい。

 「ひと目で気に入って、買わなかったら、一生後悔するかもしれない、などと隣でブツブツと念仏を唱え出したかと思ったら、その尻から、今度は、決め手に欠ける、などと言い出す始末」。

 ZさんとZ’さんとの珍道中、目に見えるようだ。

 「買わないと一生後悔する、決め手に欠ける米沢織の角帯って、どんなの?、って、思わず、突っ込んでみたくなるでしょ」と、再びジャブ程度に語気を強めるZさんではあるのだけれど、でも、その表情の中に、負の因子なと微塵も見当たらず、それどころか、妙にホノボノとしてきたりするから面白い、のである。(つづく)