はしご酒(3軒目) その三十九
「フリマワサレテ」①
この帯だけは、と、あらためて、自慢げに見せてくれた今宵のZ’さんのその重厚な黒を基調とした角帯、は、和紙まで織り込んだ米沢織であるという。たしかに、着物男子心(キモノダンシゴコロ)をくすぐる逸品である。旅先で、おもわず、勢いで、購入したとのこと。
ただし、その購入の際も、迷えるZ’さんのその背中を、思いっ切り押してくれたのは、やはり、Zさんであったらしい。
「ひと目で気に入って、買わなかったら、一生後悔するかもしれない、と、隣でブツブツと念仏を唱え出したかと思ったら、その尻から、今度は、決め手に欠ける、などと言い出す始末」、と、その時を思い出すかのように語り始めた、Zさん。
「『買わないと一生後悔する、決め手に欠ける米沢織の角帯』って、どんなの?、って、突っ込みを入れてみたくなるでしょ」
たしかに、おっしゃる通り、思いっ切り突っ込みを入れたくなる。
老練なボケとツッコミで観客を魅了する、あたかもベテラン漫才師のような、そんなZさんとZ’さんのその珍道中、目に見えるようだ。(つづく)