ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.844

はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と七十五

「ノーウーマンノークライ ナ バリアイランド!」③

 別れ際に、そのお兄さんを心配させまいと、「大丈夫。バリは僕の庭のようなものだから」、と、片言の英語でエラそうに宣ったわりには、別れたそのシリから、ココはドコ?、と、途方に暮れる。

 仕方なく、とりあえず、土の道をプラプラと歩いていると、何軒か並んでいる店のその左端の、角のお土産屋さんのオヤジさんと目が合ってしまう。

 その店、たしかにお土産屋さんっぽくはあるのだけれど、だからと言って、よくあるあの「ファンシー」感は全くない。聞けば、その無骨なオヤジさんが全て作っている、という。

 そう聞かされると、なぜか妙に興味が湧いてきて、吸い込まれるようにして店内へと入っていく。

 え~い、気に入ったヤツは片っ端から買ってやれ~、と、いくつかチョイスして、カウンターにドドドドドンと並べてみせる。

 ユルリと、雑な計算をし始めたオヤジさん。しかもその目は、一層、僕を、不安に陥れてしまうほどに違う方を見ている。その、その視線の先にあるモノとは、ナニあろう、僕の、僕のTシャツ。

 突然、歌い出すオヤジさん。

 あっ、あ~、ノーウーマン、ノークライ。そう、その日、僕が着ていたTシャツの前面には、ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズのノーウーマン・ノークライの歌詞が、所狭しとビッチシと、書かれまくっていたのである。

 このTシャツ、何年も前に、あるスーパーマーケットで買った、いわゆる安物で、元々薄かった生地は、ますます薄くなっている。

 上機嫌で、ひたすら歌い続けているオヤジさんに、とにかく、支払いをしなければ、と、財布をカバンから出そうとする。すると、そのオヤジさん、両手でソレを制止する。

 ん?

 コレは、売り物じゃないんだ、か?

 コレは、君には売りたくないんだ、か?

 僕なりに、頭の中のコンピューターを思いっ切り働かせて、その制止の理由(ワケ)を知ろうと試みる。

 するとオヤジさん、その両者を指差しながら、「イクスチェインジ!」、と。

 んっ、ん~?、イクスチェインジ!、って。

 あっ、あ~、イクスチェインジ、ね。

 えっ、え~!、イ、イ、イクス、イクスチェインジ~!?

 この、この着古したTシャツと、目の前に並んだ僕セレクションの数々とを、イクスチェインジ、交換したい、ということなのだろうか。

 いやいやいやいや、それはナイだろ、それはナイ。絶対にナイ。

 その、そのナンとも想定外な展開に、私は、どうしたものか、と、その場で、しばらく立ち尽くしていた、というわけだ。(つづく)