はしご酒(Aくんのアトリエ) その七百と三十二
「イマハ モウ ジョセイノ キモチヲ シッカリ カンガエナイトイケナイ ジダイニ ナッテキテイルノデ」
「『フリン』って、ナンだ」
えっ!?
「倫理から、外れた。倫理が、ない。の、不倫」
あ、あ~、不倫、か。
Aくん得意の唐突感丸出しで、突然「不倫ってナンだ」と言われたのだ。当然のごとく困惑してしまった、私。
「そもそも倫理って、ナンだ」
リンリ?、倫理、倫理、か~。
・・・ん~、難しい。高校時代、「倫理社会」という科目があったが、以前から馴染みがあったあの「道徳」とは、なんとなく、ひと味違うテイストであったような気はした。
「人が人であるための倫理が法律よりも下に見られる。だからだろうけれど、とくに不倫なんてものに対しては、法律違反でもないその程度のコトでガタガタ言われる筋合いはないし、言う必要もない、と、宣いがちなピーポー、結構、いたりするだろ」
たしかに、所詮、夫婦間の問題。家庭の問題。ソッチで勝手にやってくれ。的な、そんな扱いをされがちだ。
「僕はね、そんな不倫の裏側に、トンでもない差別の臭いを、どうしても感じるわけ」
「差別の臭い、ですか」
「そう、如何ともし難い『男尊女卑』という差別の臭い。いや、『強尊弱卑』と言った方がいいかもしれない」
キョウソンジャクヒ?
「強き者が弱き者を差別する」
あ、あ~、強尊弱卑、か。
「見下す。軽んじる。己の満足のために、いいように利用して、そして、マズいコトになってくると、いとも簡単にサクッと切り捨てる」
ヒドいな。
けれど、大抵の場合は、そんな感じなのかもしれない。己の愚行を恥じ、腹を掻っ捌(サバ)いてでも、詫(ワ)びる。責任を取る。などというようなコトは、まず、ないだろうから。
「たとえば、弁護士の肩書きをもつあるコメンテーターが、悪びれず、平然と、テレビで、『今はもう、女性の気持ちを、しっかり、考えなければならない時代になってきているので』などとメチャクチャ上から目線で、男性目線で、宣ったりする。女性の気持ちを考えなければならない時代になってきている、だぜ。ソレって、そんな時代になってきていなかったら、女性の気持ちなんて考える必要はないし、どころか、そんなもん、そもそも考えたくもねえし、ってコトだろ。違うかい」
違わない。
なんか、まるで、封建時代あたりからタイムスリップでもしてきた方(カタ)のコメントのようだ。「以前おりました時代は、シモジモの者たちに気を遣う必要なんておまへんでしたさかいな。いや、ホンマに、邪魔臭い時代に来てしまいましたわ~ガハハ~」、みたいな。
ナゼか、頭の中が、あの、大阪弁のOくんみたいな口調まみれになり、おもわず、吹き出してしまいそうになる。
「その『強尊弱卑』という資質そのものに問題がある。と、思っている」
「ましてや、そんな人間が、学校の先生に、弁護士に、コメンテーターに、そして、政治家に、とくに、国会議員に、なんて、トンでもないことだと」
「そう、そういうことだ。そんな人間が法律をつくるんだぜ。考えただけで反吐(ヘド)が出そうになる」
(つづく)