ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.208

はしご酒(3軒目) その三十七

「オジイサン ノ オオシマ キキイッパツ」②

 「あ~、コレね。ありがとう。祖父の古着を仕立て直してみたのだけれど、やっぱり、いいものはいい、ということなんだと思う」

 すると、Zさんが口を挟む。

 「よく言うわね~。断捨離だ~、って、なにもかも廃棄してしまいそうな勢いだったんだから」

 突然のピンチに見舞われ、どうにかして話題を変えたそうなZ’さん、(苦しまぎれに?)「マスター、いつものヤツ」、と。

 「いつものヤツ?」

 「マスターのスペシャリテマティーニ

 「カクテルは、あまり得意でなくて」

 「マスター、彼にも」

 「えっ」

 得意でないのに。

 「百聞は一見にしかず、味わってみてくださいよ」

 結構、強引。

 結局、ほとんど味わったことなどないマティーニなるものをいただくことになる。

 マティーニ、か~。

 ひょっとすると、ドウにかコウにか危機一髪のところで奇跡的に救われたお祖父さんの大島、も、味わってみて初めてその良さがジンワリジンワリと、ということだったのかも。と、なると、そのZ'さんイチオシのスペシャリテも、同じように、その強引な一口のおかげでその良さが、などと、なんとなく思ったりしているうちに、別のある思いが、突然、ポワンと膨らんでくる。

 お祖父さんには申し訳ないけれど、着物であるなら、まだ、仮にZ'さんに廃棄されてしまったとしても、どうすることもできないレベルのトンでもないコトにはならないだろうけれど、もっともっとこの星にとって致命症になってしまうレベルの重要なモノであったとしたら、などと考え始めたものだから、なんだか恐ろしくなってくる。

 結構、この星のそこかしこでは、ホントに大切なモノやらコトやらココロやらが、恐ろしくなるほど、廃棄され続けているのかもしれないな。

 トにもカクにも、Zさんのおかげである。

 彼女の、土壇場での救済活動があったればこそ、の、今宵のZ’さんの小粋な着物コーデ、な、わけなのだから。(つづく)