はしご酒(3軒目) その三十七
「オジイサン ノ オオシマ キキイッパツ」②
「あ~、これね、ありがとう。祖父の古着を仕立て直してみたのだけれど、やっぱり、いいものはいい、ということなんだと思う」
すると、Zさんが口を挟む。
「よく言うわね~、断捨離だ~、って、なにもかも、廃棄してしまいそう、だったんだから」
突然のピンチに見舞われ、どうにかして話題を変えたそうなZ’さん、(苦しまぎれに?)「マスター、いつものやつ」、と。
「いつものやつ?」
「カクテルは、あまり得意でなくて」
「マスター、彼にも」
「えっ」
「百聞は一見にしかず、味わってみてくださいよ」
Z'さんとのやりとりの中で、ほとんど味わったことなどないマティーニなるものをいただくことになる。
それはそれとして、どうにかこうにか危機一髪のところで奇跡的に救われたお爺さんの大島、も、味わってみて初めて、その良さがジンワリジンワリと、ということだったのだろうな~、などと、なんとなく思ったりしているうちに、別のある思いが膨らんでくる。
お爺さんには申し訳ないのだけれど、着物であるから、まだ、仮にZ'さんに廃棄されてしまったとしても、大した問題にはならないが、もっともっとこの星にとって致命症になってしまうほど重要なものであったとしたら、などと考え始めたものだから、なんだか恐ろしくなってくる。
結構この星のそこかしこでは、ホントに大切なモノやらコトやらココロやらが、恐ろしくなるほど、廃棄され続けているのかもしれないな。
とにもかくにも、Zさんのおかげである。
彼女の、土壇場での救済活動があったればこそ、の、今宵のZ’さんの小粋な着物コーデ、な、わけなのだから。(つづく)