ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.672

はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と十三

「ヨウカイ ヤツアタリ」②

 「そしてもう一つ、こうして手を合わす、その理由がある」

 もう一つの、理由?

 「高僧でもナンでもない我々一般ピーポーは、どうしても俗に塗(マミ)れる」

 俗に、塗れる?

 「それゆえ、心の奥底から滲み溢れ出てくる悪しき邪念に手を焼く」

 悪しき邪念に、手を焼く?

 「僕はね、その悪しき邪念を、この両手の中に封じ込めているんじゃないか、って、思っている」

 両手の中に、か~。

 「必ずしも手を合わす必要はないんだけれど、その気持ちはことのほか大事で、そんな、ことのほか大事な気持ちを無くしてしまった者に、妖怪ヤツアタリは、ニジリニジリと忍び寄ってくる」

 その、心のスキマを嗅ぎ取って忍び寄ってくる妖怪ヤツアタリは、そのあと、いったい、ナニをしでかすのだろう。

 「そして、ドコまでも自分都合の、手当たり次第の八つ当たりを、コッソリと耳元で、唆(ソソノカ)す」

 唆す?

 「しかも、この妖怪、あるコトに長けている」

 長けている?

 「八つ当たりをするのに好都合な相手を、見抜く力に、滅法、長けているわけだ」

 好都合な相手を、見抜く?

 「たとえば、パートナー、恋人、家族、みたいな、身近な者たち。さらには、場合によっては、そんな身近な者たちだけでは飽きたらず、あらゆる業種をも巻き込んで、ほとんど関係のない通りすがりみたいな者たちにさえも、ロックオンだ」

 通りすがりみたいな者たちにさえもロックオン、か~。

 一旦心を沈めて、冷静に、私なりに自分を取り巻くアレやコレやに目をやってみる。

 ・・・

 ・・・

 ん~、たしかにこの世の中は、理不尽で人騒がせな、自分都合の「八つ当たり」で溢れかえっているかも、と、マジで思えてくる。(つづく)