はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と十三
「ヨウカイ ヤツアタリ」②
「そしてもう一つ、こうして手を合わす、その理由がある」
もう一つの、理由?
「高僧でもナンでもない我々一般ピーポーは、どうしても俗に塗(マミ)れる」
俗に、塗れる?
「それゆえ、心の奥底から滲み溢れ出てくる悪しき邪念に手を焼く」
悪しき邪念に、手を焼く?
「僕はね、その悪しき邪念を、この両手の中に封じ込めているんじゃないか、って、思っている」
両手の中に、か~。
「必ずしも手を合わす必要はないんだけれど、その気持ちはことのほか大事で、そんな、ことのほか大事な気持ちを無くしてしまった者に、妖怪ヤツアタリは、ニジリニジリと忍び寄ってくる」
その、心のスキマを嗅ぎ取って忍び寄ってくる妖怪ヤツアタリは、そのあと、いったい、ナニをしでかすのだろう。
「そして、ドコまでも自分都合の、手当たり次第の八つ当たりを、コッソリと耳元で、唆(ソソノカ)す」
唆す?
「しかも、この妖怪、あるコトに長けている」
長けている?
「八つ当たりをするのに好都合な相手を、見抜く力に、滅法、長けているわけだ」
好都合な相手を、見抜く?
「たとえば、パートナー、恋人、家族、みたいな、身近な者たち。さらには、場合によっては、そんな身近な者たちだけでは飽きたらず、あらゆる業種をも巻き込んで、ほとんど関係のない通りすがりみたいな者たちにさえも、ロックオンだ」
通りすがりみたいな者たちにさえもロックオン、か~。
一旦心を沈めて、冷静に、私なりに自分を取り巻くアレやコレやに目をやってみる。
・・・
・・・
ん~、たしかにこの世の中は、理不尽で人騒がせな、自分都合の「八つ当たり」で溢れかえっているかも、と、マジで思えてくる。(つづく)