はしご酒(Aくんのアトリエ) その七百と十六
「ヒガイシャ ガ ジャクシャ トハ カギラナイ?」
「なんで被害者が偉そうにするかな」
ん?
「被害を受けたことを恥じるべきではないのかな。本当は」
んん?
「強くなろう、もっと。被害者と加害者の二項対立を乗り越えなければ、被害比べがエスカレートするばかり。人類はどこへいくんだろうか」
ん、ん~。
「ある弁護士の言葉なんだけれど」
弁護士?
弁護士の、言葉、か~。
真っ当な弁護士の方々にはナンの恨みもないが、残念ながら、このところ、弁護士だからといって遵法精神があるわけではない、と。そして、オキテ破りの合法的(?)脱法に命を懸ける弁護士だって数多くいる、と。そう、メチャクチャ思いがちなだけに、「弁護士の言葉」などと聞くと、どうしても、条件反射のごとくズドンと訝(イブカ)しんでしまう。
「この彼の言葉の内なるモノが、僕には、ちょっと、読み切れないんだよな~」
読み切れない?
「ナゼですか。読み切るもナニも、丸ごと酷い内容じゃないですか」
「そうなんだけれど、後半の、『被害比べがエスカレート』ってワードが、ナゼか妙に引っ掛かっているんだよな」
被害比べが、エスカレート?
ん~、・・・。
おそらく、彼は、圧倒的に不利な立場に置かれている加害者の弁護でも担当しているのだろう。彼の言葉は、明らかに、加害者側に立っている。
「つまり、必ずしも被害者が、弱者とは限らないということですか」
「少なくとも彼は、必ずしも加害者が強者とは限らないだろ。と、思っている」
加害者が強者とは限らない、か~。
ん~、・・・。
ナゼ被害者がエラそうにするのか。
被害を受けたことを恥じるべきではないのか。
・・・。
無理やり好意的に解釈すれば、その弁護士の言葉、に、理解できなくもない微小な「点」を感じられなくもないけれど、トにもカクにも、おそらく、こういったこの手のモノの考え方が巷に根強くあったりするものだから、一向に、ネット上の誹謗中傷が消えてなくならないのだろう。そのコトだけは間違いないような気がする。
たとえば、仮に、ナンでもお見通しのお天道(テント)さまあたりが裁判官でもしてくれるのなら、そもそも弁護士なんて必要ない。所詮、人間の所業だからこその、弁護士。そんな弁護士ごときが、ナゼ、そのように被害者を罵(ノノシ)ることができるのか。全く理解できない。被害者は、クールにジャッジされることはあっても、罵られることはない。そんなコトは許されないはず。にもかかわらず、その弁護士は、あたかも己がお天道さまかナニかと勘違いされておられるのか、あまりにも高圧的で断定的で、エラそうだ。いや、お天道さまは、そんなモノ言い、絶対にしない。
「人間ごときの所業だからこそ、できる限りクールに臨まなければならないはずの弁護士が、あまりにもカッカしてしまっているコトに、私は、とてもイヤな、危険な、モノを感じます」
「イヤな、危険な、モノを、ね~。・・・ん~、感じる、か。感じる、な。感じる。たしかに感じる。よしっ。今度、ドコぞの居酒屋でバッタリ会ったら、『なんで弁護士が偉そうにするかな。カッカしてしまっていることを恥じるべきではないのかな。本当は』って、バシッと言ってやるか~」
勢いづくAくんには申し訳ないが、ドコぞの居酒屋でバッタリは、まず、ないと思う。(つづく)