ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.1284

はしご酒(Aくんのアトリエ) その七百と十五

「ウルカ デジタルデ ミラレルヨウニシテ ステヨウ」

 「随分と昔のコトなんだけれど」

 ん?

 「新しい美術館の設立に向けた作品の公募みたいなのがあって」

 「応募されたのですか」

 「滅多にそんなコトはしないんだけど、ナゼか珍しくそのコンセプトに興味を感じたのと、たまたま、ちょうど制作中のヤツもあったというのもあって、よし、出してやろう、ってね」

 「ソレ、って、どんな作品だったのですか」

 「どんな作品、って、・・・見る?」

 「み、見れるんですか」

 「たしか、奥にあったと思うんだがな~」

 そうブツブツと呟きながら、Aくん、奥へと消えていった。

 どんな作品だろう。

 アレコレ、勝手に、妄想しているうちに、興味も期待もプクプクと、プクプクと膨張する。

 「あった、あった」

 Aくん、三段重ねにされた箱を抱えて、思いの外、早く戻ってくる。そして、その箱たちをテーブルの上に静かに置く。

 考えてみると、Aくんの作品を見るのは初めてかもしれない。と、いうか、絵を描いているということ自体、知らなかったような気がする。あらためて、Aくんのコトをナニも知らなかったんだな~、と。

 う、うわっ。

 カラフルでキュートな顔たちが、蓋の向こうで、箱の中で、押し合い圧(ヘ)し合いしつつも規則正しく鎮座している。

 Aくん、その中から、一つ、摘まみ上げる。

 一辺が5cmぐらいだろうか。その木製の立方体の上面に顔たちが描かれているのだ。

 「顔、顔、顔、の、オンパレードですね」

 「顔の中に宇宙がある。みたいな、そんな感じで制作していた気がする」

 顔の中に、宇宙、か~。

 なんか、いい。

 「まずスライドで審査だというので、コイツたちを、学校の古い床に碁盤の目のように一定の間隔でズラリと並べて、撮った、写真を、スライドにして送ったのだが」

 まさか。

 「ある日、『絵画作品に該当しない』、みたいな、そんな内容が書かれた紙が一枚、ペラリと入った封書が届いて、終了」

 「が、該当しない、ですか」

 「なんか、試合前のドーピング検査に引っ掛かってしまった、って感じだよな」

 「ド、ドーピング検査、ですか」

 「そう。たしか絵画部門かナンかだったと思うんだけれど、平面でないと絵画じゃ、ない。失格。ご苦労さん。みたいな」

 「芸術は爆発だ~、の、わりには、なんだか、メチャクチャ、カッチンコッチンですね」

 「そうそう、芸術は爆発だ~のわりには、メチャクチャ、カッチンコッチン。ま、カッチンコッチンならカッチンコッチンで、何事にもカッチンコッチン過ぎるぐらいカッチンコッチンに、『糞(クソ)』が付くほど真面目にやってくれれば良かったのだけれど」

 ん?

 「結局、選ばれた作品たちは、日の目を見ることなく、ドコかの駐車場の隅にブルーシートを被されたまま放置されてしまっていたわけだからな」

 あっ、あ、あ~、アレか。

 「その時のアドバイザーみたいな立場のオヤジさんの言葉が」

 んん?

 「『売るか、デジタルで見られるようにして捨てよう』らしいから」

 な、なんと。

 「作品への、作者への、respect (リスペクト)。微塵も感じられないよな~。酷(ヒド)い話だよ、まったく」

 さすがに、その時に選ばれた全ての作品が、ということはないだろうけれど。でも、やっぱり、酷い、酷すぎる。

 集客を見込めないと断じられた作品たちの、哀れなる末路、か。(つづく)