はしご酒(Aくんのアトリエ) その五百と十四
「ナイソデハ フレナイ」
「無い袖(ソデ)は振れない」
ん?
「袖が無いなら振らなきゃいいじゃないか、って、僕なんかは思うのだけれど」
んん?
「振らないとソッポ向かれる、向かれてしまう、とでも、思っているんだろう」
んんん?
「ならば、袖のあるチャンとした着物を一(イチ)からキチンと仕立てなければならないのに」
「そうではないのですか」
「ミニスカートの着物みたいになってしまおうが、そんなことはお構いなしに、ジョキジョキと、ハサミで裾(スソ)を切り取って、縫い付けて、袖にする。みたいなコトをやってしまう」
なんと。
「ならまだしも」
えっ?
「どうせ前方からは見えないだろう、ということで、背中の部分を全て切り取って、袖にする。そして、袖を振る。トップリと甘い汁に浸して振るわけよ、その袖を」
なんということだ。
「この、見えない、見えにくいトコロを切り取って、皆が注目してくれる、甘い汁だと思ってくれるトコロに、振れる袖を縫い付ける、という手口。姑息だとは思わないかい」
「パッと見は、いかにも袖を振ってます、振らせてもらいますよ~、なのだけれど、実は、チャッカリと、見えにくいトコロからは切り取らせていただいております、という手口。ソレって、姑息どころか、まさに先ほどの『合法的悪行』ってヤツそのものですよね」
「あるトコロに対しては、合法的悪行をしてでも袖を振りたいのだろう。そして、ソレが、上手い具合に票に繋がれば、シメシメ、ということになるんだろうな、あの人たちにとっては」
ふ~。シメシメ、か~。
(つづく)