ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.1077

はしご酒(Aくんのアトリエ) その五百と八

「メザセ マットウニ ウルサイ イッパンピーポー」

 しかし、ナゼ、論理的な、科学的な、具体的な説明をしなくて済むのだろう。

 「方針や政策の変更を行う際に、ナゼ、あの人たちは、丁寧な説明をしなくても、大丈夫、乗り切れる、と、思うのでしょうか」

 「大丈夫、乗り切れる、と、思うか、ね~・・・」

 ヤバい。

 この感じ、またまた再び、Aくん、沈黙の扉を開けてしまいそうだ。

 「そうだ」

 えっ。

 「ハトムギ

 ハ、ハトムギ

 「ハトムギのラスクがあった」

 ハトムギの、ラスク?

 「とにかく旨いんだよ、そのラスクが。食べる?」

 そう呟くと、私の返事を待つ素振りなど微塵も見せることなく、ササッとテーブルの上を片付けて、またまた奥へと姿を消してしまう。

 ハトムギ、か~。

 ん?、ハトムギ茶?、の、あのハトムギか?

 私イチオシの玄米、に、肉薄するらしいスーパーフード、ハトムギのことだな、きっと。そんなハトムギの、ラスク、か~。興味がブクブクと湧き上がってくる。いったい、どんなラスクなのだろう。

 などと、アレコレ、勝手に考えたりしていると、Aくん、満面の笑みを浮かべながら舞い戻ってくる。

 「呑み残しだけど」と言いつつ、ドン、と、テーブルの上にキレイな色のワインの瓶を置く。

 ロゼ?

 に、しては、ちょっと色味が違うな。

 呑み残しらしいから、いつのまにやら薹(トウ)が立って、瓶内熟成が進んでしまったか。

 などと、またまた、勝手に、アレコレ考えたりしていると、Aくん、「オレンジワイン」、と。

 オ、オレンジワイン?

 「つ、ついに、ミカンでワインですか」

 「違う違う。白ブドウの皮と一緒に発酵させたオレンジ色の白ワイン」

 「白ワインなのですか」

 「いや、オレンジワイン」

 ヤヤこしい。

 「で、コレだ。コレが、そのハトムギの、ラスク」

 透明の小さなビニール袋の中に数枚、いかにも美味しそうな茶褐色のラスク。

 「でだ」

 「えっ」

 「一般ピーポーたちが、あまりにも忘れっぽいのと、あまりにもオトナしいのとで、あの人たちは、ほとんどのコトは乗り切れる、と、思うのだろうな」

 あ~。

 「僕たちは、真っ当に五月蝿(ウルサ)い一般ピーポーであるべき」

 「ま、真っ当に、五月蝿い、一般ピーポー、ですか」

 「そう、真っ当に五月蝿い一般ピーポー。己の自己満足のためだけに、ただ闇雲に、理不尽に、オキテ破りに五月蝿い一般ピーポーではない、筋の通った真っ当な五月蝿い一般ピーポー、は、けっしてモンスターでもクレーマーでもない、ということだ」

 ん~、なるほど。

 筋の通った、真っ当な、五月蝿い一般ピーポー、か~。 

 「どうしても理解できないコトがあるなら、どうしても訝(イブカ)しむコトがあるなら、勇気を絞り出してでも、とにかく、まず、声を上げる」

 ん~、なるほど、なるほどな~。

 めざせ、真っ当に五月蝿い一般ピーポー、か~。

 するとAくん、厚手のグラスにトクトクと、そのオレンジワインを注ぎ入れながら、「ま、とりあえず、そのラスクをひと齧(カジ)りして、グビリとやってみてよ」、と。

 それにしても、ホントにキレイな淡いオレンジ色だ。

 「では」 

 カリッ。

 いい噛みごたえ。

 バリッ。

 ハトムギの香りにキャラメルの甘みが絡まる。

 グビリ。

 うわっ。

 「赤でも白でもない絶妙なミネラル感が、ラスクと絡みに絡んで、いいですね、コレ」

 「いいだろう。真っ当に五月蝿い一般ピーポーには、真っ当に旨いオレンジワインとハトムギのラスクがよく似合う、ってね。全然、関係ないけど」

 たしかに関係ないのだろうけれど、真っ当に五月蝿い一般ピーポーは、全くもってマズくなんかない、ということだけは、自信をもって言えそうだ。(つづく)