はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と百と百と四十六
「ゴツゴツ ノ ベラベッカ!」
「コレだよ、コレ、コレ」
妙にプチハイテンションで、そう宣いながら奥から舞い戻ってきたAくんが、片付けられて些(イササ)か寂しくなっていたテーブルの上にポンと置いたモノ、ソレは、ナニやらゴツゴツとした数枚の茶色い輪切りたち。そして、少し遅れて赤ワインの瓶がドンと置かれる。
「あっ、グラスを忘れた」
慌てて奥にグラスを取りに行く、Aくん。
テーブルの上に鎮座する軽く焼かれたソレらは、スイートでスパイシーな香りを放つ。好きな香りだ。
「こんなのしかなくて」
ゴツゴツの茶色い輪切りに負けないぐらいゴツゴツなグラスが二つ、遅ればせながら、ようやくトンと着地する。
その遅れを取り戻すかのようにトクトクと注がれた赤ワインも、黒ワインと言い換えてもいいぐらいのゴツゴツ感満載の濃厚な色味で、いつの間にかテーブルの上は、まさに、ゴツゴツがゴツゴツを呼ぶゴツゴツワールドなのだ。
うわっ、タンニン!
「タンニン感、ありますよね~」
「タナ種の葡萄からつくられたワインだからな」
「タナ種、ですか」
「そう、タナ種。タンニンがその語源らしいから、そりゃ、タンニン感では負けない」
たしかに、タンニン感では、他のどのワインにも負けないような気はする。
「ま、ちょいと摘まんでみてよ、ソイツを」
先ほどから気になって仕方がなかったソイツを一切れ摘まみ上げて、一カジリ。
おっ。
急いで、ソイツを追い掛けるようにタナ種の黒ワインを、一グビリ。
お~。
口の中で、ドライフルーツとナッツとスパイスとタンニンとがメチャクチャ楽しそうに小躍りし始める。しかも、それぞれがバラバラに、勝手に躍り狂うのではなく、互いの違いを認め合いつつ、皆で寄って集(タカ)って新たなるスペッシャルでハイクオリティな躍りをつくり上げていくような、そんな感じなのである。
「美味しいですね~」
「だろ。さすがアルザス伝統菓子の逸品、ベラベッカ」
ベラベッカ、というのか。
「そのベラベッカに、地域的には真逆のタナ種が絡んでいくわけだからな。広がりも深みも増しに増します増しますワールドって感じなわけよ」
なるほど、増しに増します増しますワールド、か~。
ベラベッカやタナ種の黒ワインようにゴツゴツと、ヤタラと自己主張する印象のソレゾレが、絡みに絡んで広がりも深みも増しながら、も、最終的にはギュッと、より良いモノに凝縮していくこの感じ。考えすぎなのかもしれないけれど、なんとなく、私たちが見習わなければならないコトであるようにも思えてくる。
するとAくん、も、私を真似るように納得の一カジリと一グビリ。の、そのあと、ほんの少しだけ間を置いて、ユルリと、ボソリと、一言。
「こうした多様性のマリアージュこそが、未来を照らす光、なのかもな」
(つづく)