はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と百と百と六十六
「ハンケイ1000メートル ノ ジュウジツ」
自分たちが住む街で、ある程度完結していた時代が、あの、昭和、で、あったような気がする、と、Aくん、日々の生活とその街が、あったかく、密接に関わり合っていた、あの時代の、決して無くすべきではなかった宝物について、いま一度、懐かしみつつ、ソレらを咀嚼しながらユルリと語り始める。
ん~、無くすべきではなかった、宝物、か~。
コレも、ナンの躊躇もなくスグさま理解できる。
ナゼなら、あの頃、私が住んでいた、あの、名もなき街もまた、まさに、ナニもカもほとんど、その街だけで完結していたからである。
・・・
幼小中高と、揃い踏みの学校たち。
交番。
消防署。
郵便局。
信用金庫。
医院。
教会。
銭湯。
文房具店。
薬局。
写真館。
電気屋。
金物屋。
畳屋。
八百屋。
鶏肉屋。
米屋。
市場。
駄菓子屋。
和菓子屋。
うどん屋。
中華料理屋。
釜飯屋。
牛乳配達店。
ホンの少しだけ離れたトコロに養豚場、と、養鶏場。
もちろん、田畑。
少し遅れて、ちょっとだけオシャレなコーヒーショップ、パティスリー、ベーカリー。
そして、お隣の、とても、とてもお世話になったお豆腐屋さん。
・・・
そんな、私の家から半径1000メートル圏内の充実。
おそらく、合理性とか、機能性とか、生産性とか、といったモノとは無縁の、ナンてことのない普通の街であり、そうした一つひとつもまた、吹けば飛ぶような小さきモノであったのかもしれないけれど、でも、少なくとも、その名もなき街は、リアルに呼吸する一つの生きている街として、ソコに間違いなく存在していたのである。(つづく)