ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.1020

はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と百と五十一

「シツゲン! シツゲン?」

 なかなか腹の虫が治まらないのか、Aくん、吐き捨てるように語り続ける。

 「歪んだままで、ドロドロで、真っ当なモノの考え方もできそうにない、ぐらい、心の中はトンでもなくダークであるにもかかわらず、上手い具合に当たり障りのない言葉を連ねる。というような、姑息でズルい、権力を握る、握りたがる、そんなシモジモじゃないエライ人たちが目立って、目立って仕方がない」

 ん~。

 いつもながらのヤヤこしさで、その真意を掴みきれないが、その感じ、わからなくはない。

 「当たり障りのない言葉を連ねることに神経を使うぐらいなら、失言を恐れず思い切って発言してみろよ、ということですか」

 「僕はね、失言には二種類あると思っている」

 二種類?

 「つまり、正真正銘の『純』失言と、ソレは失言じゃないだろ、としか思えない『濁』失言」

 「純失言と濁失言、ですか」

 「そう。たとえば前者の純失言。それほど間違ったコトを言っているわけではないのだけれど、心を痛めている、辛い思いをしている、そんなピーポーたちへの配慮を著しく欠いている、みたいな場合。が、僕が思う『失言』なのであって、その場合、躊躇なく、即時、謝罪し撤回しなければならない。もちろん、ソレで済むとは思わないが、その後の地道な努力次第では、充分に信頼回復もあり得る」

 なるほど。

 「むしろ問題なのは、後者の濁失言。僕の定義では、そう簡単にはコイツを、『失言』と認めるわけにはいかない」

 失言ではない、濁、失言、か~。 

 「調子に乗って、おもわず本音を吐いてしまう。場合によっては、意図的に吐く。どう考えてもソレらは失言ではないだろ。そうは思わないかい」

 よく、シモジモじゃないエライ人たちは、「真意が伝わらず誤解を招いたようなので」などというフレーズを用いるが、では、その真意とは、いったい、ナンだったのか。残念ながら、滅多に、ソコのところを丁寧に説明されている姿を見かけることはない。おそらく、Aくんは、その辺りのコトを指摘しているのだろう。

 「僕はね、思うわけよ。濁失言に関しては、ソレがその人の本音であり考え方であるわけだから、謝罪すべきではないと」

 えっ!?

 「なんと言われようと、自信をもって己の考えを貫けばいい」

 「さ、さすがにソレは、問題があるのではないですか」

 「申し訳ない、と、微塵も思っていないのに、ナゼ、謝罪するのか、撤回するのか。本当は謝りたくも撤回もしたくもないのなら、堂々としていればいい」

 ん~。

 Aくんはナニを言おうとしているのか。

 「そうした己の考えを包み隠さず全て、有権者に訴えればいいのだ。そして、選挙によってジャッジされればいい」

 不利になろうがなるまいが、正直に己の考えをオープンにして立候補すべき、ということか。

 「自分はこういう考えをもっているこういう人間なんだ、というコトを、さらけ出さないまま立候補することは、一種の『詐欺(サギ)』だとさえ、僕は思っている」

 つまり、むしろ問われるのは、一票を投じる側の意識であり「眼力」だということか。

(つづく)