ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.945

はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と百と七十六

「オカネヲカケズニ テマヲカケテネ」

 「田舎の伯母さん」

 えっ?

 「田舎の伯母さん、もう、かなりの年齢なんだけれど、料理上手。ホントに上手なんだよな」

 ほ~。

 ナニがきっかけになったのかはわからないが、Aくん、突然、料理上手の田舎の伯母さんのコトを思い出したらしい。

 「気を遣ってくれたのか、少し離れた洋食屋さんでオードブルセットを頼んでくれていたんだけれど、そんな気遣い、全然必要なかったのに。というか、伯母さんのそのおばんざいの方が圧倒的に旨いわけ。おそらく、畑で採れたモノだけでは申し訳ないとでも思ったのだろうな」

 なんとなく、伯母さんのその気持ち、わかるような気はする。

 「テーブルの上には、所狭しと炊いたのとか、煮たのとか、漬け込んだのとか、サッと炙っただけみたいなのとか、が、ピカピカと鎮座していて、箸も酒も進む進む、進みまくる。とくに、伯母さん特製の年代モノの辣韮(ラッキョウ)の酢漬けが、ちょっと甘口で僕好みでさ~、コレが旨いのナンのって」

 うわっ、聞いているだけで唾液がジュワッと滲み出てくる。そういう辣韮って、絶対にスーパーでは売っていない。

 「僕があまりにも褒めるものだから、伯母さん、少し照れながら、ポロリとこう呟いたわけ」

 ん?

 「お金をかけずに手間をかけてね、つくっただけ」

 あ~。

 「ソレで充分、充分なんだよ。僕はね、手間をかけてつくってくれただけで、もう泣きそうになるぐらい大満足だった、って話。それだけの話なんだけれど、なんかメチャクチャ大切なコトのような気がしたんだよな~、その時、僕は」

 お金をかけずに手間をかけてね、か~。

 たしかに、イヤになってくるほど金(カネ)まみれのこんな今だからこそ、大事な言葉のような気が、私もする。

 政治や行政に関わる皆さんも、Aくんの伯母さんのその言葉、一度、ジックリと噛み締めてみてはどうだろうか。(つづく)