はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と四十一
「タカガベーコン サレドベーコン」②
「おまたせ~」
そう言いながらAくんが、ザラリとした土の風合いの小皿に、いい塩梅に焼き目が付けられたベーコンの小片を、いくつか盛って戻ってくる。
「ジャストタイミングなベーコンの登場ですね」
「だろ~。コレがまたべラボ~に旨いときてる」
たしかにベラボ~に旨そうである。遠慮しつつ、その一切れを口に運ぶ。
「わっ」
口の中で広がる脂(アブラ)の旨味が、その質の高さを充分に感じさせる。
「お、美味しい、美味しいですね、このベーコン」
「だろう。肉そのものもかなりのクオリティーなんだろうけれど、それにも増して、実に丁寧ないい仕事をしているんだよな~」
「伝説のベーコンづくりの匠、みたいな方の、珠玉の逸品ってヤツですか」
「それが、な、なんと、高校生がつくったモノだというから驚きなわけよ」
「こ、こ、高校生、ですか」
全く想定外のAくんのその言葉に、さすがに私もまた、かなり驚いてしまう。
「そう。三重県の農業高校、らしい」
「す、凄い、ホントに凄いですよね」
凄い、という言葉以外、思い付かない。それほどの完成度なのである。
すると、Aくんもまた、その一切れをガシガシと美味しそうに噛み砕いた後、グビリと酒で胃の奥まで流し込む。そして、ユルリと、力強く、言い放つ。
「たかがベーコン一つで大袈裟かもしれないけれど、でもね、されど、されどベーコン、さりとてベーコン。より安全でより旨い、そんなベーコンを目指して、地道に頑張る高校生たちのエナジーをズズンと感じる中で、よしよし、よ~しっ、大丈夫だ、この国の、この星の、農業の明日は、未来は、まだまだ充分に明るいぞ、って、マジに思ったりするんだよな~」
(つづく)