ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.854

はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と八十五

「ミザルイワザルキカザル! ミザルイワザルキカザル?」

 時折、目にすることがある「三猿(サンザル)」。それぞれ、目に、口に、耳に、両手を当て、横一列に鎮座するフォーメーションは、ことのほか、愛くるしくキュートだ。

 「見ざる言わざる聞かざる。ご存じですよね」、と私。

 「もちろん。あの、孔子ゆかりの、とも言われている、『三猿(サンザル)』だよね」、とAくん。

 「こ、孔子、ですか」

 孔子とは。さすがにソレなりに驚いてしまう。

 「い、いや。直接、本人に聞いたワケじゃないから、本当のトコロのコトは知らんけど」

 「あっ、そうそう。どういうワケか、この国のピーポーたちには受け入れられなかったみたいなのですが、股間に両手を当てた4匹めの猿がいたらしいですよ」

 「股間に両手を!?。ス、スゴイな、それ」

 「見ざる言わざる聞かざる、そして、せざる」

 「せざる!?。ナンだか、いかにも『戒め』って感じだよな~」

 「そうなんです。コレって、戒め、っていうか、教訓、って、英知、っていうか、とにかく、そんな感じなんです」

 「イヤというほど、デマゴーグやらフェイクニュースやら、怪しげなプロパガンダやらが蔓延しているこの世の中だ。そんな未来を予知して、孔子が、ありがたい『戒め』を、我々に残しておいてくれたのだろう」 

 「と、私も、思っていたのですが」

 「ん?、違うのかい」

 「違う、というか、ナンというか。とにかく、ナニかがドコかで、どうしても引っ掛かって、引っ掛かって仕方がないのです」

 するとAくん、「ナンとしてでも心を乱されないがための、見ざる言わざる聞かざる、せざる、な、ワケだろ」、と。

 心を乱されない、が、ための?

 「つまり、単なる『保身』ではない、ということだ」

 単なる保身ではない、か~。

 「醜きモノから我が身を遠ざける、というコトは、真実から目を背(ソム)ける、というコトと、真逆と言っていいほど、全くもって根本的に違う」

 あっ、あ~。

 ナンとなく、意味もわからずボンヤリと引っ掛かっていたコトの、そのボヤけていた輪郭が、ほんの少し、シャープに見えてきたような、そんな気がした。(つづく)