はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と百と二十一
「ピンチヲ チャンスニ!」
「少し前から、ちょっと気になっているワードがあるんだ」
ん?
「ピンチをチャンスに変える」
あ~。
実は、私も、以前から、ほんの少しながらも引っ掛かってはいる。おそらく、その言葉の本来の意味はそうではないのだろうけれど、とくに、政治関係者たちがその言葉を用いる時は、ナニやらどうも胡散(ウサン)臭い。
「環境の著しい変化やら国際的な動乱やらナンやらカンやらのために、今まで通りではどうにも立ち行かなくなってきた、そんな時、目の前に何本かの道があるわけよ」
「何本かの道、ですか」
「そう、何本かの道。そのうちの一つは、それでも規模を縮小しながら地道にやり続ける。もう一つは、徹底的なマーケティングの末、思い切って路線を変更する。他にもイロイロな道があるが、どの道が正解かは神のみぞ知る」
神のみぞ知る、か~。
「ですが、たとえば、絶望に打ちひしがれて、ナニもカも後ろ向きになってしまうような道だけには、神さまは微笑んでくれないような気がします」
「いや、それでも、神さまは微笑んでくれる、はず」
それでも神さまは微笑んでくれるはず、か~。
・・・。
たしかに、絶望に打ちひしがれた人々のその傷口に塩をグチュグチュッと擦り込むようなコトを、神さまがするとは思えない。
「ただし、ただしだ。ピンチをチャンスに変える、の、その意味を、見事なまでにオキテ破りの拡大解釈をして、ドサクサに紛れて、そのピンチをウマい具合に利用し、不安に陥ったピーポーたちを誘導し、そして、大事なモノのその魂を抜き去って、形も中身も都合よく変える、みたいな、そんなアコギな『ピンチをチャンスに』系の人々には、神さまは、もちろん、微笑んでなんてくれないだろうけどな」
(つづく)