ガッコ ノ センセ ノ オトモダチ vol.792

はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と二十三

「ミノガサナイ!」②

 「この感覚、もちろん我々も含めて、忘れちゃダメだよな」

 現場魂、職人魂。

 忘れてはいけないと思う。仮に、もし、この感覚を忘れてしまったとしたら、もう、この国の、この星の、肝心要の土台が、ナニもカも全て丸ごと劣化していくような気がする。

 「この感覚を忘れてしまった業界に、未来はないですよね、おそらく」

 「ないね、ない。間違いなく、上しか見なくなるから」

 「上しか見なくなる?」

 「そう、上しか見なくなる。魂が現場に向かなくなったら、もう、上を向くしかないだろ、違うかい」

 現場を軽んじて、上を向く、か~。

 「一応、言っておくけど、坂本九のあの名曲、♪上を向いて歩こう、の、上を向く、は、ソレとは全く正反対なんだ」

 正反対?

 「彼は、彼女かもしれないけど、ず~っと地道にコツコツと、大地に根を生やして、現場で生きているんだよ」

 ん?

 「でもね、さすがに辛くなってくることもある。その時ぐらいは、涙を堪(コラ)えて上を向いて歩こうよ、という、そんな歌だと、僕は、勝手に解釈している」

 「うんうんうんうん、なんとなく、わかるような気がします」

 するとAくん、正反対、正反対なんだ、正反対なんだよな~・・・などと、念仏を唱えるかのようにブツブツと言い出したと思ったら、やっぱり、案の定、コブシを回してシッポリと歌い始めてしまう。

 ♪うっえっを

  む~う~いて

  あ~るこうおうおうおう

  なみだっが

  こんぼっれっないようおうおうに~

  おもいっだ~す~ 

  は~るのっひ~

  ひと~りぽおちの 

  よっる~

 Aくんが、これでもか、というぐらい、シッポリと歌い上げた、♪上を向いて歩こう、を、聴いているうちに、フツフツと、尚のこと思う。

 断じてこの歌は、現場を軽んじて、ひたすら上だけを見て、媚びへつらい、忖度しながら姑息に生きていこうとするピーポーたちの、歌ではない。(つづく)