はしご酒(Aくんのアトリエ) その百と百と二十三
「ミノガサナイ!」②
「この感覚、もちろん我々も含めて、忘れちゃダメだよな」
現場魂、職人魂。
忘れてはいけないと思う。仮に、もし、この感覚を忘れてしまったとしたら、もう、この国の、この星の、肝心要の土台が、ナニもカも全て丸ごと劣化していくような気がする。
「この感覚を忘れてしまった業界に、未来はないですよね、おそらく」
「ないね、ない。間違いなく、上しか見なくなるから」
「上しか見なくなる?」
「そう、上しか見なくなる。魂が現場に向かなくなったら、もう、上を向くしかないだろ、違うかい」
現場を軽んじて、上を向く、か~。
「一応、言っておくけど、坂本九のあの名曲、♪上を向いて歩こう、の、上を向く、は、ソレとは全く正反対なんだ」
正反対?
「彼は、彼女かもしれないけど、ず~っと地道にコツコツと、大地に根を生やして、現場で生きているんだよ」
ん?
「でもね、さすがに辛くなってくることもある。その時ぐらいは、涙を堪(コラ)えて上を向いて歩こうよ、という、そんな歌だと、僕は、勝手に解釈している」
「うんうんうんうん、なんとなく、わかるような気がします」
するとAくん、正反対、正反対なんだ、正反対なんだよな~・・・などと、念仏を唱えるかのようにブツブツと言い出したと思ったら、やっぱり、案の定、コブシを回してシッポリと歌い始めてしまう。
♪うっえっを
む~う~いて
あ~るこうおうおうおう
なみだっが
こんぼっれっないようおうおうに~
おもいっだ~す~
は~るのっひ~
ひと~りぽおちの
よっる~
Aくんが、これでもか、というぐらい、シッポリと歌い上げた、♪上を向いて歩こう、を、聴いているうちに、フツフツと、尚のこと思う。
断じてこの歌は、現場を軽んじて、ひたすら上だけを見て、媚びへつらい、忖度しながら姑息に生きていこうとするピーポーたちの、歌ではない。(つづく)